FA・ロボット業界の片隅から

FA業界の片隅のフリーランス機械設計者のブログ。 産業用ロボットウォッチが趣味です。

ロボットの機構(11)~第3軸の補助にばね要素を使う構造~

以前の記事で、ばねによる動力補助を紹介しました。
ロボットの機構(3)~ばね要素~ - FA・ロボット業界の片隅から

記事中の例では、第2軸を補助する例だけを紹介しましたが、第3軸にばねでの動力補助をする構造について紹介します。

多くの大型ロボットの構造

前置きとして、世の中の重可搬の大型産業用ロボットでは

  • 第2軸・・平行リンク機構とばねによる補助
  • 第3軸・・カウンターウエイトによる補助

という構成をとっている機種が多いです。


大ロボット M-2000iA - ROBOT - ファナック株式会社 より画像引用~

見てわかる通り、カウンターウエイトはかさばるので後方の干渉半径が大きくなりますし、ロボット本体重量も増えることになります。
それと比較すると、ばね要素はコンパクトで軽量です。
第3軸もばねで補助をしたらいいのでは?と思いますが、その構造をとっているロボットは多くありません。
なぜでしょうか。

第3軸にばね要素を使う難しさ

結論から言うと、第3軸の駆動をばねで補助しようとするのは、一筋縄ではいかないです。
ばね要素の記事で書いたように、ばねの反力が常に重力に抗して、アームを持ち上げるように配置するのが理想です。
第2軸を補助する場合は、第1軸がどんなに回転しても、重力の方向は変わりません。*1
ですが、第3軸から見ると、第2軸の角度によって重力の方向が変化してしまいます。
そのため、通常の垂直多関節ロボットで、下アームと上アームの間でばねを配置しても、第2軸の角度によっては、うまくばねの補助が効かないことになります。

リンク構造のない産業用ロボットの場合

例えば、下の図のように第3軸を補助するようにばねを取り付けた例を考えてみましょう。
この姿勢ではうまくばねによる動作の補助ができているようですが・・・

このような姿勢の時には、ばねの力と重量の方向が同じになってしまい、逆に軸の負荷を増やしてしまいます。*2

リンク構造を持った産業用ロボットの場合

そこで、平行リンク機構と組み合わせて、上アームの角度が第2軸の角度に依存しない構造を考えてみましょう。
(大地基準で上アーム=第3軸が動作する構造です)
圧縮ばねを使うと・・・

引張ばねを使うと・・・

何とかなりそうな気がしてきましたが、ばねは長さがあるので、支点など、どのように配置するか?も悩みどころとなります。

このように、第3軸にばね要素を使うのは結構ハードルが高いということが分かります。
が、その困難を乗り越えてこだわりの構造を採用しているロボットがありますので、紹介したいと思います。

実例1:川崎重工 CP500L, CP700L

第3軸にばね要素の補助を採用しているロボットの1つ目は、川崎重工のパレタイズロボットCP500L, CP700Lです。


CP500L | 川崎重工の産業用ロボット より画像引用~

CP500L | 川崎重工の産業用ロボット
CP700L | 川崎重工の産業用ロボット

平行リンク機構で第3軸の駆動部分はリンク上に配置したタイプですが、第3軸モータ付近にばねが配置されています。
模式図で描くとこうなります。

このロボットは、少し珍しい平行リンク構造になっているので、第2軸が回転して下アームの角度が変わっても、上側の短いリンクの角度は変わりません。

リンク構造とばね要素をうまく組み合わせていると感じます。

※このロボットの構造について詳しく知りたい方は、過去記事をご覧ください:ロボットの機構(7)~似て非なる2種類のパレタイズロボット~ - FA・ロボット業界の片隅から

実例2:川崎重工 MXP360L

例の2つ目はこれも川崎重工なのですが、大型ハンドリングロボットのMXP360Lです。
MXP360L | 川崎重工の産業用ロボット
写真からだと分からないのですが、動画を見ると、第3軸を駆動させるリンクロッドにばねが取り付けられていることが分かります。
(56秒付近、1分38秒付近など)

模式図で描くと、このようになります。(説明に不要な軸は省略してあります)

斜め下から圧縮ばねで突き上げるようにして、第3軸の動作を補助しています。
こちらも、非常にユニークな構造です。

ただ、この構造は、アームを下げた姿勢では、ばねがアームの動きを邪魔することになりそうです。動作全体の平均で考えるとモータの負荷が軽減されるという設計思想でしょうか。

ちなみに川崎重工はユーザ登録なしでSTEPデータをダウンロードできるので、興味のある方は是非ダウンロードしてみてください。

まとめ

いかがだったでしょうか。
第3軸でばね要素を使うことが難しい理由が分かっていただけたと思います。
それが分かると、各社の大型ロボットが似たような構造に収斂していく事情も分かると思います。

ですが、あえてJ3軸の補助にばね要素を採用する会社もあり、それぞれの設計思想が透けて見えるようで非常に興味深いです。

*1:一般的な産業用ロボットの軸配置の場合です

*2:さすがにこの例は安直すぎますが