自動車好きな方であれば、この車種はこのメーカのOEMなどと聞いたことがあるかと思いますが、ロボット業界でのOEMはあるのか?どんな形態か?について解説していきます。
OEMとは
Original Equipment Manufacturerの略で、「相手先ブランド製造」とも言われます。
A社のロボットアームをB社が購入し、B社のブランドで販売、というような形態です。
ただ、産業用ロボットのOEMの場合、制御装置はB社のもの(販売側)をセットにする場合が多いようで、他業界のOEMとは異なる特色になっています。
また、他業界のOEMでは、製造側は黒子に徹していて自社の販路を持たないケースもありますが、産業用ロボットの場合は、提供する側もロボットメーカとして自社ブランドの販売をしているのが通常です。*1
なお、ロボットシステムインテグレータ(SIer)が、ロボットを含むシステムを売るのはOEMとは別物となります。
メリットデメリット
では、産業用ロボットのOEMにおける、供給側、販売側、ユーザそれぞれのメリットデメリットを見ていきましょう。
説明の中では、
- 提供側・・A社
- 販売側・・B社
としています。
提供側(A社)のメリット
やはり何より、B社の販路を生かしてロボットが売れることです。
提供側が食い込めていなかった分野でロボットの性能がマッチした場合、多くの販売増が望めます。
提供側(A社)のデメリット
A社自身のブランドが浸透しないことです。
私みたいなマニアックな人は、他社のロゴが付いていても、「このロボットアームの形状は○○のものだな・・」と思いますが、普通の人はそこまで気にしません。
また、制御装置・ソフトはB社のものである場合が多いので、提供側はメカ(ロボットアーム)のみの販売となり、利益としては薄くなりがちです。
販売側(B社)のメリット
開発費用や在庫リスク、新規製造ライン立ち上げコストなどを抑えてラインナップ拡充できることです。
特に、小型ロボットメインのロボットメーカーから何十台もロボットを買うお客さんが、1台だけ大型ロボットが欲しいんだけど・・・となった場合を考えてみます。
自社で設計・製造する場合、開発費用や生産ライン立ち上げの初期投資費用をペイするだけの台数が売れるかもわかりません。
また、小型メインのメーカーが経験のない大型ロボットを開発するのも大変で、開発期間も伸びることが予想されます。
ですが、OEMで他社から供給してもらえれば、そういったリスクを回避してお客さんのニーズに応えることができます。
OEMの事例ではありませんが、
小型ロボットで構成する製造ラインでも、最終段階のパレタイジングなどで中型ロボットを望む声はあり、「ラインの最終段階まで『オール三菱』で提供できるようラインアップ充実に踏み切った」((三菱電機)武原主管技師長)
[特集 2023国際ロボット展vol.5]ソリューション提案に注力/三菱電機 武原純二 主管技師長|産業用ロボットに特化したウェブマガジン より引用
という記載を見つけました。*2
小型メインのロボットメーカでも、一段階大きいロボットを販売したい事情があるという裏付けになっていると思います。
販売側(B社)のデメリット
納期調整が難しいこと、不具合の対応等ではワンクッション挟むので小回りがきかないことなどが挙げられます。
また、いったん提供側の会社から購入する形になるので、割高になりやすいです。
さらに言えば、OEMで提供を受けて販売しているだけでは、設計ノウハウもB社内にたまりません。
ユーザのメリット
産業用ロボットは、会社によって操作体系*3が異なるので、多数のロボットの中で1つだけ異なるメーカのものがあるのは嫌なものです。
SIerであっても全メーカのロボットの操作に精通することは難しいため、使い慣れているロボットメーカの中から選定することになります。
OEMによって選択肢を増やしつつ、メーカーを統一できることがメリットです。
また、購入やトラブル対応の際の窓口も一本化できます。
ユーザのデメリット
販売側のデメリットと同じなのですが、割高になること、トラブル対応時に時間がかかるといったことが挙げられます。
イラストでまとめるとこのようになります。
事例
ロボット業界でのOEMの事例と提携の事例を紹介します。
私は中の人ではないので、一般公開情報から推測も交えつつ、例を挙げています。
ダイヘンと不二越
不二越とダイヘン、制御部品を共同調達−産ロボ事業で連携強化 | 日刊工業新聞 電子版
2011年の記事です。制御部品の共同調達という記事ですが、
両社のコントローラやロボットアームは同じ外観のものが多数あるため、かなり密接なつながりがあると予想できます。
どの製品でどちらが開発主体かといった詳細は分かりませんが、両社とも元々長くロボット事業を手掛けていますので、クロスOEMで、お互いの製品をお互いの販路で販売できるような協力体制であると思われます。
川崎重工とNEURA Robotics
CL Series Collaborative Robots | Industrial Robots by Kawasaki Robotics
New Cobot Series: Kawasaki Robotics introduces CL series – powered by NEURA Robotics - NEURA Robotics
ドイツのKawasaki Robotics GmbHとNEURA Roboticsのニュースリリースです。*4
川崎重工のページでは
powered by the partnership with Neura Robotics.
と記載がありますが、NEURA Robotics側からロボットの提供を受ける形だと思われます。*5
川崎重工は、協働ロボット分野では双腕SCARAタイプのDuAroのみでしたので、OEMで(垂直多関節の)協働ロボットでの存在感を出していきたいのだと思います。
DENSOとComau
※この2社については、完全な推測です。
NJ-40-2.5: characteristics and technical specifics - Comau
垂直多関節ロボット新型「VM」シリーズと 「VL」シリーズを新たにラインナップ、2020年7月に販売開始~「VL」シリーズは、デンソーロボット最大の可搬質量40㎏、最長のアーム長2,503mm~
DENSOとComauのロボット、外観は全く同じロボットです。
DENSOは小型ロボットメインの会社ですが、Comauは小型~大型まで手掛けていますので、DENSOが大型ロボットのラインナップを補うために供給を受けていると思われます。
OmronとAdept, TechMan
提携・買収の例です。
オムロンが過去最大の買収に踏み切る理由|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社
adept社は産業用ロボットの元祖、ユニメーション社の流れをくむロボットメーカなのですが、現在はOmronの完全子会社になっています。*6
オムロン、台湾テックマン社と次世代の協調ロボットを共同開発 | IoT NEWS
OmronとTechManは業務提携をしています。
Omron自体は産業用機器の大手であり、世界中に販路を持っていますが、ロボットの設計・製造のノウハウはありません。
買収・提携によって技術を買い、既存製品との相乗効果を狙っていると思われます。
*1:ロボット業界でも、自社の製品の製造を完全に別会社に委託している場合があるかもしれませんが、そのような情報は外には出てきませんし、ユーザにとってはあまり関係ないので本記事では触れません
*2:川崎重工のRS080NRS080N | 川崎重工の産業用ロボットという機種にそっくりなのですが、左右が逆なんですよね。調査中です
*3:シミュレータなども
*4:国内での販売がどうなるか、現段階では不明です。
*5:制御装置についてどうなっているかは、調べきれませんでした。制御装置が別のものになった場合、基本的には第三者認証も取り直しになるので、NEURAの制御装置が使われているかもしれません
*6:アメリカで産業用ロボットの大手メーカがないのは若干不思議です