FA・ロボット業界の片隅から

FA業界の片隅のフリーランス機械設計者のブログ。 産業用ロボットウォッチが趣味です。

ロボットの機構(1)~平行リンク機構~

平行リンクと言ってもパラレルリンクロボットのことではありません。*1
垂直多関節ロボットの中でも、大型ロボットについている棒(リンク)について解説していきます。

大学でロボティクスを学んだ人にとっては当たり前のことかと思いますが、つらつらと説明していきたいと思います。

なんでこんな形態をとっているんだろう?

国際ロボット展に行くと、必ずいるFANUCの超大型ロボット。もはやアイコンと化していますね。
よく見ると、小型ロボットにはない追加の棒(リンク)*2やら重りやら、シリンダ形状の部品がついています。

FANUC大型ロボット

FANUC公式サイトより画像引用 大ロボット M-2000iA - ROBOT - ファナック株式会社

さらに他の会社のロボットも見てみると、大型ロボットにはこのような平行リンクがあることに気が付くと思います。
今回は、その理由を説明してみたいと思います。

可搬重量100倍だったらモータも100倍の大きさ?

ロボットに重たいものを持たせたい場合、出力の大きいモータを使えばいいと思いますよね?
でも実際はそうなっていません。
例えば、FANUCのロボットの仕様を見てみます。
各関節のモータのW数が分かればいいのですが、なかなか公開されていないので、制御装置の必要電源容量で比べてみたいと思います。
搭載しているモータの合計W数ににだいたい比例しているはずです。

シリーズ 可搬重量 必要電源容量
Mate 200iDシリーズ 4kg~14kg 1.2kVA
M-2000iAシリーズ 900kg~2300kg 30kVA

出典:
ミニロボット - 機種一覧 - ROBOT - ファナック株式会社
大型ロボット - ROBOT - ファナック株式会社

シリーズの中で、大きい方で比べてみると、可搬重量は14kgと2300kg。
それに対し、必要電源容量は1.2kVAと30kVA。
可搬重量は160倍も違いますが、必要電源容量は25倍です。

大丈夫なの?なんで?

その答えの1つがリンク機構なのですが*3、その説明の前に前置きを。

前置き・リンク機構がないロボットの関節にかかる負荷

第2軸にかかる負荷の計算

簡単のために、手先に100kg、アーム自体の重さは無視、各アームの長さが1m, 1mとしています。
重力加速度gは近似で10[kgm/ss]とします。
最初に出した図、このような姿勢の時、第2軸は100kg×1m×10 = 1000Nmのトルクを支える必要があります。
(※本ブログで使用している用語や図示法についてはこちら:https://fasumi.hatenablog.com/entry/2022/11/14/152021

ロボットの姿勢1

このような姿勢の時、第2軸はやはり100kg×1m×10 = 1000Nmのトルクを支える必要があります。

ロボットの姿勢2

では、前方にめいっぱい伸ばした姿勢の時は? 第2軸は100kg×2m×10 = 2000Nmのトルクを支える必要があります。
第2軸のモータの悲鳴が聞こえてきそうです(笑)

ロボットの姿勢3

このように、平行リンクがないロボットの場合、第2軸、第3軸の両方の角度が影響して、第2軸の負荷が変わります

ロボットの関節にかかる負荷~平行リンクのある場合~

では本題の、平行リンクありのロボットの場合はどうなるでしょうか。

側面図で見ると、第2軸と第3軸が重なって見えるのですが、下の図のようになっている前提で読んでください。

リンクありロボットの構造(斜めから見た図)

上の図を平面的に描くと、下の図のようになりますが、この姿勢のときは第2軸にどのようなトルクがかかっているでしょうか?

なんと、第2軸にはトルクがかかりません!手先の重さ100kgは、第2軸に垂直にかかっているだけです。

リンクロボット姿勢1

では、次に第2軸を倒していって手先を真下にしてみます。
下記の図の場合、第2軸には、100kg×0.87m×10 = 870Nm *4のトルクがかかります。

リンクロボットの姿勢3

では、先ほどと同じように、前方に伸びた姿勢をとるとどうでしょうか?
このような姿勢でも、第2軸にかかるトルクは同じく870Nmです!

リンクロボットの姿勢2

第3軸がどのような姿勢をとっていても、第2軸にかかるトルクは変わらない、これが平行リンク機構を採用するメリットです。

その結果として、小型ロボットの100倍のモータを付けないと!というようなことを回避し、現実的な設計ができるというわけです。*5

平行リンク機構のデメリット

最大のデメリットは、動作範囲が制限されてしまうことです。
リンク構造の部材同士が干渉するので、180°以上の動作範囲をとることができません*6

また、部品が増える、ロボット自体が重くなる、などのデメリットもあります。

小型ロボットはどうか

黎明期には、可搬重量の小さいロボットでも、リンク機構のあるものがありました*7
が、現在の小型ロボットでリンク機構のあるものは皆無です*8
これは、シーズとしては、モータや減速機の高機能化・部材の軽量化などにより、リンクなしで設計が成立するようになったこと、
ニーズとしては、特に小型ロボットはリンクレスによってコンパクトになることを求めるユーザの要望が強い、ということだと思います*9

関連記事

今回は平行リンクの力学的な部分を取り上げましたが、「平行を保つ」「動作角を伝達する」という機能もあります。
fasumi.hatenablog.com

また、モータの負荷を軽減するための仕組みは、リンク機構だけではありません。
fasumi.hatenablog.com
fasumi.hatenablog.com

*1:意味を考えると同じなのでややこしいのですが。産業用ロボット界隈の人は、"パラレルリンク"というと、FANUCのゲンコツロボットのようなもの、"平行リンク"というと本記事で説明する4節リンク構造を指すように思います

*2:学術分野では関節と関節の間をつなぐものは全て"リンク"と呼ぶようなのですが、産業分野では主な構造部材を"アーム"、今回の記事のような平行リンク機構のための追加部材を"リンク"と呼ぶことが多いようです

*3:他にも減速比を調整したりなどもあると思うのですが

*4:cos(30°)=0.87

*5:実際は、減速比の設定も大いに影響しているのですが、それはまた別途・・・

*6:めちゃくちゃ工夫すればできるのかもしれませんが、見たことがありません

*7:写真が見つかったら追記したいと思います

*8:デスクトップ用・ホビー用の一部のものは例外として

*9:ただ、大型ロボットでも、KUKAのtitanシリーズはリンクレスで1300kg可搬があります。また、2021年11月にはFANUCが1000kg可搬のリンクレスロボットを発表しており、少しずつ大型ロボットでもリンクレスの流れがあるのかもしれません