産業用ロボットに関する古い書籍を入手しました。
目の前のロボット活用にはあまり役立たないかもしれませんが、歴史的な資料として面白いため、現在と比べてどうか?という見方で紹介したいと思います。
なお、書籍の中をそのまま転載はできないため、まとめや私の感想メインとなってしまいます。ご了承ください。
機会があればぜひ実物を読んでみてください。
- 時代背景
- ロボットを製造・販売している会社が多い
- さまざまな形態のロボットが混在していた
- 駆動源がさまざま
- 駆動方式・減速方式がさまざま
- 位置決め性能が悪い
- 重かったかというとそうでもない
- 高額
- 最後に
時代背景
発行は1981年で、40年以上前です。
1976年(昭和51年)に200億円弱だった市場規模が、1980年(昭和55年)には780億円と急伸し、1980年は「産業用ロボット元年」と呼ばれていました。
労務費の上昇とロボット価格の低下により、もともと1年間の人件費の9倍程度だったロボット価格が、3倍程度にまでなっており、ロボット導入の後押しとなったことが書かれています。
当時の主要産業はやはり自動車製造と電気機器製造で、直近3年間の統計ではロボット総出荷額の53%を占めていました。
余談ですが、FANUCはまだ富士通ファナック、パナソニックはまだ松下産業機器、ダイヘンはまだ大阪変圧器です。
また、川崎重工の川崎ユニメートがまだ現役販売されていました。
ロボットを製造・販売している会社が多い
32社とある通り、現在と比べてロボットを製造しているメーカがかなり多いです。
現在もロボット業界で存在感のあるFANUC、安川電機、川崎重工、不二越、ダイヘンといったメーカがあるのはもちろん、
神戸製鋼やぺんてる、セーラー万年筆、三協精機製作所*1、日東精工などのちょっとマニアックなロボットメーカもあります。
また、岡村製作所*2、ダイキンなど、現在はロボット事業から撤退したと思われるメーカなどもありました。
産業用ロボットの導入機運が高まり、多くのメーカが参入してきた時代だったことがうかがえます。
ちなみに三協精機や日東精工などは、ロボットをやっているイメージなかったので今回調べて初めて知りました。
現在もロボット製品を持っている会社が意外と多い印象で、技術継承のためといった側面もあるのかなと予想しています。
参考:
さまざまな形態のロボットが混在していた
現在、産業用ロボットというと垂直多関節型・SCARA型・パラレル型にほぼ限定され*3、形態が収斂していますが、この頃は円筒型や極座標型など、いろいろな形態があります。
掲載されているもののうち、形態が判明している116機種を数えてみたところ、*4
- 垂直多関節型:43%
- 直交型:39%
- 円筒座標型:10%
- 極座標型:9%
- SCARA:3%
黎明期ということもあり、各社ベストな形状を模索しているところだったのでしょう。
意外にもSCARAがそれほどなく、円筒座標・極座標などが一定割合います。
駆動源がさまざま
現在はACサーボの電動がほぼ100%と言えますが、当時の機種は油圧や空圧もそれなりに使われています。
掲載されているもののうち、駆動源が明記されている133機種を数えてみたところ、
- 電動:50%
- 油圧:20%
- 空圧:14%
- 上記組合せ:17%
でした。
現在のように精密減速機それほど普及していなかったため、油圧による大推力や空圧機器の軽量さなどが要素として魅力だったのでしょう。
駆動方式・減速方式がさまざま
前項と関連して、原動機からどのように減速するかの方式も多様でした。
回転関節であってもボールねじを使って回転させていたり*5、サーボモータをエアで補助したり*6と、いろいろな工夫があります。
ナブテスコの減速機は1985年販売開始なので、産業用ロボットの後を追いかけるようなタイミングです。
ハーモニック減速機は1970年代には市場投入が開始されていたようですが、まだまだ新しく出たものという扱いだったのでしょう。
わざわざ「ハーモニック減速機使用」と記載のある機種もありました。
参考:
位置決め性能が悪い
現在のロボットは、小型ロボットだと手先位置繰り返し精度0.03mm、大型のものでもせいぜい0.2mmというようなイメージですが、当時はどうだったのでしょうか。
手先部での位置決め精度が掲載されていた103機種で集計したところ、
- 0.1mm未満:25%
- 0.1mm以上1mm未満:50%
- 1mm以上5mm未満:18%
- 5mm以上:7%
という結果となりました。
この時は測定条件が統一されていない可能性がありますので参考データとはなりますが、やはり現在のロボットと比較すると位置決め精度が悪いと言えます。
重かったかというとそうでもない
昔のロボットは本体が重くて大きい割に、重いものを持てなかったイメージがあります。
そこで、可搬重量÷自重(メカ部分)を計算してみました。*7
SCARAや直交ではまた話が違ってくるかと思い、多関節型・極座標型・円筒座標型に限定し、自重と可搬重量が明記されていた67機種の平均をとってみたところ、0.11となりました。
自重の11%を持てる性能と言うことですね。
参考にFANUCの現行のロボットの数値をいくつか見てみると、
- 7kg可搬で自重25kg→0.28
- 10kg可搬で自重46kg→0.21
- 16kg可搬で自重145kg→0.11
- 60kg可搬で自重820kg→0.07
- 165kg可搬で自重1090kg→0.15
- 1200kg可搬で自重8600kg→0.14
というような計算になります。
これらと比較すると、平均して0.11というのはそれほど悪くない数値であり、いたずらに重かったというイメージを改めました。
ただし、このころのロボットは4軸、5軸の機種も多いため、その分は差し引いて考える必要があるかと思います。
可搬重量ではなく、アームの長さや動作速度などを重視して設計されている場合もあるからです。
高額
全機種の金額が掲載されているわけではありませんが、安いものでも300万円、高いものだと3000万円(!)と、当時どんどん価格が下がっていたとは言うものの、まだまだ高額の設備だったことがうかがえます。
最後に
今回は趣味全開の記事になってしまい、申し訳ありません。
現在入手困難な本を紹介されても・・という感想もごもっともです。
ですが、当時の雰囲気や、ロボットがどのように進化してきたかを少しでも感じていただければ幸いです。