産業用ロボットでの、ロボットとロボットシステムの違いについて解説していきます。
なお、本来は「産業用ロボット」「産業用ロボットシステム」と書くべきですが、本記事では省略して「ロボット」「ロボットシステム」と書いています。
例え話
ロボットとロボットシステムの関係性はトラックに例えると分かりやすいです。
トラックが欲しい場合・・
車好きな方ならば知っていると思いますが、トラックで有名な日野やいすゞといったメーカは、実はシャーシ部分だけ*1を製造していて、その上の箱(荷室)やクレーンと言った部分は、架装メーカと呼ばれる会社が取り付けています。
トラックが欲しい!と言ったときに、シャーシだけの状態で渡されても困りますよね
こういう用途で使いたい、というユーザの希望に合わせて架装(荷室やクレーンなど)を行うのが架装メーカとなります。
特装車・車体架装とは?架装する意味と種類を解説① | 特殊車両ならトノックス
特装車・車体架装とは?架装する意味と種類を解説② | 特殊車両ならトノックス
ロボットが欲しい場合・・
ロボットが欲しい!でも同じ状況です。
ロボットアームとコントローラだけ渡されても、「いや動くけど・・・」となってしまいます。
「ロボットだけ」というのは、使える状態にはまだなっていないのです。
FANUCや安川電機などのロボットメーカが販売するロボットが「半完成品」*2と呼ばれる理由もここにあります。
エンドユーザの立場でロボットが欲しいというのは、「生産に使えるロボットシステムが欲しい」ということですね。
ユーザの希望を聞き取り、ロボットを仕事でつかえる状態にするのがシステムインテグレータと呼ばれる職種です。
規格上の定義
規格上の定義も見ておきましょう
ISO10218-1:2011(JIS B 8433:2015)で、以下のように定義されています。
3.用語及び定義
3.10 産業用ロボット
産業オートメーション用途に用いるため、位置が固定又は移動し、3軸以上がプログラム可能で、自動制御され、再プログラム可能な多用途マニピュレータ。
(注記省略)
3.11 産業用ロボットシステム
システムは、次を含む。
- 産業用ロボット
- エンドエフェクタ
- ロボットがタスクを行うために必要なあらゆる機械類、設備、装置、外部の負荷軸又はセンサ。
対応する規格も
- ロボット・・ISO10218-1
- ロボットシステム・・ISO10218-2
と、分けられています。
ロボット自体を設計製造する場合と、ロボットシステムを設計製造する場合とでは、求められることが大きく異なるため、別の規格になっているのです。
実際、ロボットの開発者とロボットシステムの開発者は全く逆方向からロボットを見ていますので、まったくの別職種と言えます。
まとめ
まとめると、表のようになります。
ロボット | ロボットシステム | |
---|---|---|
提供者 | ロボットメーカ | システムインテグレータ |
構成 | ロボットアームと制御装置 | ロボット・ツール・周辺機器 ティーチングなども完了した状態 |
販売形態 | カタログ品として量産 | 都度設計・一品モノが多い |
備考 | そのままでは生産に使えない状態 汎用的 |
生産に使用できる状態 用途に特化 |
対応規格 | ISO10218-1 | ISO10218-2 |
ロボットとロボットシステムの違いを意識することは大切
展示会などで、ロボットメーカの人に「これはいくらくらいですか?」と聞くと「まあだいたい○○万円ですね~」などと答えてくれると思いますが、それはロボットだけの値段です。
ロボットメーカとしてもシステムの構築費用は分からない*3ため、ロボットだけの値段を答えるしかないです。
実際にロボットを使うまでには、システム設計費、ツール・追加設備の費用、ティーチング費用などが乗ってきます。
産業用ロボット界隈で仕事をしている人ならば当たり前のことですが、特にこれからロボット導入を考えているという人は気を付けてください。
余談ですが、新聞やネットメディアでは、ロボットとロボットシステムの用語はきちんと使い分けられていません。
ニュース等で「△△社が独自ロボットを開発」とあった際は、ロボットの設計をしたのか、ロボットシステムを開発したのか、気を付けて読むことが大切です。
システムインテグレータの形態もいろいろある
システムインテグレータと一言で言っても、システムインテグレータ専業の会社もあれば、ユーザ企業内の生産技術などが担う場合、ロボットメーカ内にシステム構築を請け負う部署がある場合など、いろいろとあります。
このあたりに関しては、別の記事でまとめたいと思います。