FA・ロボット業界の片隅から

FA業界の片隅のフリーランス機械設計者のブログ。 産業用ロボットウォッチが趣味です。

ロボットの配線・配管について(4) ~関連特許の紹介~

以前、ロボットの配線についていくつか記事を書きましたが、配線は基本的にクローズドな部分なので、記事にしにくいという事情があります。*1
そこで、特許情報からいくつか面白い配線の構造を紹介したいと思います。
いずれも、可動部の配線をどうするかに関連した特許で、今回は三菱電機と安川電機のみです。

※各特許公報を元に、簡略化した3Dモデルを製作し、掲載しています。
※減速機が固定されている側をピンク色、駆動される側を水色、配線をオレンジ色にしています。

三菱電機

減速機を迂回してケーブルを通す

特開2011-115922
名称:旋回装置
状態:拒絶査定
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2011-115922/CF52F8264177F8C7CC2E53CE440B798DCF034865A122854BD5BF9B273D8FF21A/11/ja
ロボットのアーム内配線の経路として、減速機の中空部分を利用するという方法があります。

減速機の中空に配線を通すイメージ図

広く使われる構造ですが、

  • 減速機メーカの中空径に制限される
  • 減速機が大きくなりがち(同じ仕様の中空でない仕様のものと比較して)

といったデメリットがあります。
そこで、下記の図のように、減速機の出力と次のアーム部を迂回するコの字型の部品を用意するというのがこの特許(出願)です。

減速機を迂回して配線を通す特許のイメージ図

ピンクの部分が土台側で、水色の部分が回転します。
ケーブルの両端は、ピンク部分と水色部分にそれぞれ固定されていると思ってください。
このような構造だと、減速機の中空サイズを気にすることなく多数のケーブルを通すことができます。

残念ながら、進歩性がないということで拒絶されています。

手首部に(第5軸)にU字型収納

特許5159994
名称:ロボット関節構造
状態:有効
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-5159994/A8A54F9C90DE60C3A4BBEFCFF54A2E68DED8CAD8A901C7BE9600197934CDFA53/15/ja
ロボットのツールフランジ(第6軸ツール取り付け部)にまで多数のユーザ用配線を通すことを目的とした特許です。
ツールフランジまでユーザ用の配線を通すのは困難で、多くの小型ロボットは第3,第4軸付近にユーザ用配線のポートを準備しており、そこから先はユーザ任せになっていますが、この特許はその課題に取り組んだ形となります。>

U字型にケーブルを収納する特許のイメージ図

ピンク色の部分が土台側、水色の部分が第5軸によって回転させられます。
その際、水色の部分にU字型に格納された配線が関節の回転を吸収することになります。

なお、純粋に配線の特許ではなく、モータ・プーリなどの配置も含めての特許となっていますが、図では配線と構造部材のみとしました。

捩じり収納

特開2015-168037
名称:ロボット関節構造及びロボット装置
状態:審査請求がされておらず、取り下げ扱いになっています。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2015-168037/D789EC1BAF3223B5D5EC7D5AB0571944DE40AFA65697349AF6BE290E23D27A9E/11/ja
関節部にケーブルを巻き付けるための構造を用意し、コイル状にケーブルを巻き付けることで関節の回転に対応させるというアイディアです。

ねじり収納のイメージ図

水色の部分が開店しても、コイル状の部分で配線にかかる負荷を分散させることができます。
ただ、配線の本数が増えるにしたがって、それなりの容積が必要となる構造だと思います。

安川電機

ケーブルドラム+ニゲ空間

特許3287507
名称:産業用ロボットのケーブル処理装置
状態:有効
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-H07-096488/03A7C5B9B10FA04BFC2816942C35948415CE2B8795312998D3F78F08DEC12DC7/11/ja
アーム内にケーブルが逃げる空間を用意しておくというものです。

ケーブルドラム+ニゲ空間のイメージ図

ケーブルのニゲのための空間が必要で、ロボットアームが太くなりそうですが、挙動が単純なので信頼性は高そうです。

円周状ケーブルベア構造とフラットケーブルの組み合わせ

特開2016-022571
名称:ロボットの関節機構およびロボット
状態:取り下げ
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2016-022571/A3B3DCF8A4B188C63F7C7381D7EF415C895094907A69BDB67D5CA0138607AB86/11/ja
通常のケーブルによる旋回型ケーブルベア構造と、フラットケーブルを組合せたアイディアです。
ロボットの第1関節部(一番根本の旋回部)に使用することを意図しているようです。

円弧状ケーブルベア+フラットケーブル組み合わせのイメージ図

フラットケーブルはいくつかの会社で出ていますが、
通常の配線を並べてくっつけたような形状になっており、ケーブル自身を構造体とすることで、ケーブルベアを使用せずに、ケーブルベアのような挙動をさせることができます。
参考)沖電線のベアケーブル:https://www.okidensen.co.jp/jp/prod/cable/robot/parallel.html

うずまき型収納

特許4793687
名称:多関節ロボット
状態:権利消滅(年金不納による)
三菱電機の捩じり収納のアイディアと同じく、配線をコイルのように巻くことで、関節の動きに追従させるというものです。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2007-283449/122FDE95BC3ACE7D012A150807DC37C1258641CE500536F8C6B2F07ED5508B82/11/ja

渦巻型収納のイメージ図

まとめ

このように配線関連の特許は意外といろいろあります。
それだけ、各社、配線の収納や可動部分の扱いに苦労し、知恵を絞っているということです。
今回は2社だけでしたが、各社いろいろな構造を出願しており面白いので、他のメーカの特許も紹介したいと思います。*2

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配線関連の過去の記事はこちらから
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*1:カバーを外さないと見えない部分も多く、ロボットのリンク機構などのように一般に公開されているとは言えないためです。仕事でロボット内部を見たことは何回もあるのですが・・・

*2:配線の3Dモデルを作るのが大変なので時間がかかると思います