FA・ロボット業界の片隅から

FA業界の片隅のフリーランス機械設計者のブログ。 産業用ロボットウォッチが趣味です。

第三者認証を取得しているロボットの方がいいの?

協働ロボットがリリースされた際など、「第三者認証取得」というフレーズを目にすることがあると思います。字面からなんとなく意味はわかりますが、「第三者って誰?」「認証を取得しているロボットの方がいいの?」といった疑問について、Q&A方式で説明していきたいと思います。
このページでは、産業用ロボット・協働ロボットを念頭に説明します。

第三者認証とは?

Q. 認証機関とはなんですか?

A. 中立な立場で製品やプロセスが規格に合致しているかを判断する組織です。*1
メーカー(第一者)、ユーザー(第二者)のどちらの立場でもなく、どちらとも利害関係がない立場から審査することで、審査の公正さを担保しています。
英語だとCertification bodyや、Notified Bodyと呼ばれます。
呼び方は「認証機関」でいいのですが、公平中立な立場を強調したいときに「第三者認証機関」とつけることもあるようです。

Q. どのような認証機関がありますか?

A.産ロボ・協働ロボの分野でよく聞くのは、

  • TÜV SUD(ドイツ)
  • TÜV Rheinland(ドイツ)
  • TÜV NORD(ドイツ)
  • SGS(スイス)

あたりでしょうか。*2*3 日本法人がある場合もあります。

F社はここ、Y社はここ、というように各メーカーがどの認証機関から認証を受けるかは基本的に決まっているので、覚えておくと調べやすいです。
*4

Q. 第三者認証を取得しないと、ロボットを販売できないのですか?

A.各国の法規により異なります。
日本の技適のように、「○○の分野の製品は△△の規格について第三者認証を取得していないと販売できない」と法律で定められている場合があります。
EU圏では、ロボットもこれに該当するため、基本的には第三者認証を取得していないと販売ができません。*5
日本国内では、ロボットについては法律による強制力がないため、第三者認証を取得していなくても販売可能です。*6
ただし、国内では認証取得が必須ではないというだけであり、関連するJIS, ISOに適合するようにロボットを設計・製造する必要があります。

なお、協働ロボットに限っては、国内向けでも第三者認証を取得済みのこと*7が多いです。おそらく、協働ロボットの場合はユーザー側も認証取得済みかどうかを重視するためだと思われます。

Q. 第三者認証を取得しているロボットの方が安全ですか?

A.そうとは言えず、それぞれの製品について判断する必要があります。
認証を取得していることは、あくまで「ある製品が規格に合致した設計・生産体制となっていること」を保証するだけですので、そのロボットが安全かどうかを直接判定はできません。
ただし、認証取得済みの製品であれば一定の水準を満たしていると言えるので、「認証を取得している」=「リスクアセスメントをするための土台ができている」と考えてもよいでしょう。
厳しい言い方をすれば、認証取得は最低限のスタートラインとも言えます。

Q.認証取得しているロボットかどうか確認する方法はありますか?

A.基本的には、各メーカーのプレスリリースや製品紹介サイトで認証取得ずみかどうか記載されているはずです。
購入に向けて具体的に動いている時は、各ロボットメーカーの営業に確認するのが手っ取り早いでしょう。
少し手間はかかりますが、各認証機関が認証についてのデータベースを公開しているので、そこで調べる方法もあります。

Q.あるロボットの認証を調べる時はどこに着目したらいいですか?

A.例を以下に示します。
FANUCの協働ロボットCRXシリーズについて調べてみましょう。
FANUCのロボットはTÜV SUDで認証を取得しているようなので、
https://www.tuvsud.com/en/services/product-certification/ps-certの検索フォームで「FANUC CRX」と入れて検索してみます。

1つのページ(No.:Z10 018921 0251 Rev. 00)が見つかります。いくつか項目を抜粋してみます。

  • Product:Dual-check Safety system
  • Model(s):FANUC System R-30iB Mini Plus Controller Robot Type(s) R-30iB Mini Plus CRX-5iA, CRX-10iA, CRX-10iA/L, CRX-20iA/L CRX-25iA
  • Tested according to:2006/42/EC, EN ISO 13849-1:2015 (Cat. 3, PL d), IEC 61000-6-7:2014, ISO 10218-1:2011, ISO/TS 15066:2016
  • Status:Valid
Product

Product(製品)を見ると、どのくくりで認証を取得しているかが分かります。
この場合、Dual-check Safety systemという「機能」に対して認証を取得しています。
例えばこの項目が「Robot」となっている場合、メーカーが販売している「ロボットという製品全体」に対して認証を取得していることが分かります。

Model(s)

Model(s)(型式)を見ると、具体的にどの製品が認証を取得しているかが分かります。
この場合、R-30iB Mini Plusというロボットコントローラと、CRX-5iA, CRX-10iA, CRX-10iA/L, CRX-20iA/L, CRX-25iAの組合せが該当すると思われます。*8

Tested according to

この項目を見ると、どの規格に準拠しているかが分かります。
この例では、

  • ISO 13849-1:2015 (Cat. 3, PL d) ⇒ 制御システムの安全関連部に関する規格
  • IEC 61000-6-7:2014 ⇒ EMC(電磁ノイズ)関連の規格
  • ISO 10218-1:2011 ⇒ 産業用ロボットに関する規格
  • ISO/TS 15066:2016  ⇒ 協働ロボットに関する規格(ISO10218-1の付属書)

の3+1が記載されています。
ISO13849-1の項目ではCat.3, PLdを取得していることが分かります。
同じ規格に沿って認証を取得していても、細かいところで異なる場合がある*9ということは覚えておいてもいいでしょう。
さらに、ISO/TS 15066:2016も記載されていることから、人体への衝突の測定も実施されていることが分かります。どのような条件で測定されたか等の詳細は分かりませんが、認証機関の審査者が審査をして妥当と判断できる方法でなされているはずです。

Status

認証のStatus(状態)は有効(Valid)です。

認証機関によって用語は異なりますが、データベースには上記と同等の内容が記載されてるので、同じように調査することができます。

まとめ

今回は認証についてQ&A形式で紹介してみました。
最後にもう一度強調したいのは、「認証を取得しているから安全・安心ということではない」ということです。
「認証取得=最低限はクリアしている状態」と捉え、安全なシステムを構築するために、認証の情報をうまく活用することが大切だと思います。

*1:もちろん認証費用が発生するので、メーカーから認証機関に金銭が支払われますが、あくまでも審査の対価ということになります

*2:筆者の主観です

*3:TÜVが文字化けしていたら申し訳ありません。T・Uの上にウムラウト記号・Vです

*4:余談ですが、国家政府やそれに準ずる組織から「この組織を認証機関として認める」というお墨付きが必要であり、「新しく認証機関を作ってビジネスとしてやっていくぜ!」ということは基本的には不可能です

*5:ややこしいので、詳しくは別の記事でまとめたいと思います

*6:実際に取得しているかは各メーカ次第ですが、取得していてもそれほどPRしません

*7:もしくは、取得済みをPRしていること

*8:推定も入っています。詳しくはメーカの営業に確認する必要があります

*9:PLeだったりとか