以前、ロボットの機構として平行リンク機構を紹介しました。
fa-robot-watch.com
その中で、平行リンク機構のロボットは、リンク構造ではないロボットに比べて動作範囲が狭くなると書きましたが、もう少し具体的に説明しようと思います。
なお、今回の記事では
- 平行リンク機構を搭載したロボット⇒リンクロボット
- 平行リンク機構のないロボット⇒リンクレスロボット
と呼んでいきます。
下準備
例として下記のような動作範囲のロボットを考えてみます。*1
リンクロボット | リンクレスロボット | |
---|---|---|
第2軸動作 | 前方70deg~後方70deg | 同左 |
第3軸動作(水平状態から) | 下に70deg~上に80deg | 下に70deg~上に210deg |
第3軸の上への動作角度が異なるだけです。
この違いが、どのような結果になるでしょうか。
比較結果
動作範囲を描いてみたのが下の画像です。*4
ロボット自身の後ろ側(画像の右側)で動ける範囲が大きく違いますね。
動作範囲の差
2つの動作エリアを重ねてみると、下の図のようになります。
ハッチング部分が、リンクレスロボットが到達できて、リンクロボットは到達できない範囲です。
確かに後方へのアクセスが悪い・・・
と言いたいところですが、ロボットの動作範囲は第2、第3軸だけで決まりません。
第1軸(旋回軸)もあります。
3次元的に考えてみると、第1軸(旋回)を使って、ぐるっと後ろを振り向くようにすれば自分自身の後方にもアクセスができます。
であれば、駆動系への負荷というデメリットを乗り越えてリンクレスにしてもあまりメリットがないということでしょうか?
そうではありません。
第1軸を活用するには周辺に障害物がないことが条件になりますし、サイクルタイムも長くなりがちです。
その点、リンクレスロボットであれば、のけぞるような動きで後方にアクセスできます。
ロボットの両サイドに設備が接近していても問題ないですし、サイクルタイムも短くできます。*5
結論としては、やはりリンクロボットは後方へのアクセスに難あり、ということになります。
動作範囲とは関係ないですがリンクレスロボットは構造が単純なため、ロボット自体の重量も軽くなります。
下の表はFANUCの大型ロボットのスペックを比較したものです。
型式 | M-1000iA | M-2000iA/1200 |
---|---|---|
タイプ | リンクレス | 平行リンク機構 |
可搬重量[kg] | 1000 | 1200 |
リーチ[mm] | 3253 | 3734 |
ロボット自重[kg] | 5300 | 9600 |
可搬重量・リーチが微妙に異なるので単純比較はできないのですが、ロボット自重が倍近く異なることが分かります。
まとめ
いかがだったでしょうか。
リンクロボット・リンクレスロボットの動作範囲について比較してみました。
現状の各ロボットメーカーの大型ロボットのラインナップを見ると、やはりリンクロボットが多いです。*6
駆動系(モータ・減速機)への負荷が大きいので、力学的に有利な構造をとりたいのがメーカの本音だとは思います。
ですが、ロボットの用途の拡大に伴って、
今までは「重いものをハンドリングできればそれでよし、周りの設備はロボットに合わせる!」というユーザの感覚だったのが、
「重いものも持ち上げつつ器用に動いてほしい」と、ニーズが贅沢に(?)になっているのかもしれません。
FANUCが1000kg可搬のリンクレスロボットを出してきたように、潮目が変わってきているのかもしれません。
電気自動車業界と絡めた考察の記事もありますので、よければご覧ください。
fa-robot-watch.com