FA・ロボット業界の片隅から

FA業界の片隅のフリーランス機械設計者のブログ。 産業用ロボットウォッチが趣味です。

"協働ロボット"は一言でくくれない(改めて整理)

過去記事で「協働ロボットを一言で言うのは難しい」と書きましたが、そのことについて掘り下げました。
fa-robot-watch.com

はじめに

産業用ロボットはJISでも定義されており、また、長い歴史の中である程度 形態が収斂してはいますが、各社の製品で大なり小なり違いがあり、使い勝手はかなり異なります。
では協働ロボットはどうかと言うと、規格で定義されているわけでもなく規格上はISO10218-1(JIS B 8433-1)に「協働運転のために設計されたロボットは、(中略)の一つ以上の要求事項に適合しなければならない」と記載があり、ISO10218-2(JIS B 8433-2)内の用語の定義で協働ロボット=「規定された協働作業空間で、人間と直接的な相互作用をするように設計されたロボット」とあるため、一応はそれが定義と言うことになるのでしょうが製品の歴史が浅いため、なおさら、各社の協働ロボットの機能にもかなりばらつきがあり、ユーザが"協働ロボット"に期待することにもかなりのばらつきがあります。
また、要求事項はロボット単体*1で実現できる機能もありますし、追加の機器が必要な機能もあります。
(記事を投稿した際、「規格で定義されていない」と記載しておりましたが、間違いだったので訂正いたします。申し訳ありません。ただし、幅のある定義であり、「協働ロボット」と呼んだ際にミスマッチが起こりやすいという本記事の趣旨は変わりません。2023.6.22)

本記事では、その現状について整理してみたいと思います。

狭義の"協働ロボット"

協働ロボットはどんな特徴を持っているか?と考えたとき、あれもこれもとてんこ盛りにすると下記のような項目が挙がると思います。

  1. 安全適合の監視停止が可能
  2. 速度と間隔の監視が可能(速度制限と人の接近を検知するためのセンサ類接続)
  3. 動力および力の制限が可能(衝突検知機能)
  4. ハンドガイドが可能(ダイレクトティーチング)
  5. 丸みを帯びたフォルム、片持ちのアーム形状
  6. ティーチングペンダントがタブレットで使いやすいUIを持っている
  7. ダイレクトティーチングが可能
  8. 周辺機器との接続が容易

1~4はISO10218-1:2011の中でロボットと人の協働運転をする際の要求事項として挙げられているものです。*2*3
(ただし、この全てを備えていないといけない、とは記載されていません)
(4と7について、ハンドガイドとダイレクトティーチングは別機能のため分けて記載。2023.6.22)
5~8はUniversal Robotのイメージから来るものですね。

最も厳しく注文をつけるなら、これらの特徴全てを備えたロボットこそが協働ロボットだ!と言えると思います。
では、世の中で"協働ロボット"と呼ばれている製品が、全てこの特徴(機能)をもっているか?と考えてみると、そうでもありません。

どこまで機能を削っても大丈夫か?考えてみましょう。

広義の"協働ロボット"

  1. 安全適合の監視停止が可能(人が近づいたら止まる)
  2. 人の接近を検知するための安全センサ類が接続できる

もっとも緩く、最低限ということで協働ロボットをとらえるならば、上記2つの機能があれば協働ロボットと呼ぶことが可能です。*4

なぜなら「協働運転が可能なシステムを構築できるロボット=協働ロボット」と考えられるからです。
ですが、停止監視や速度監視、安全信号としてのセンサ類接続は、各社の通常のロボット向け制御装置でも用意されていることが多い*5ため、システムの作り方次第で協働ロボットとして扱えるということになります。

「そうか!今まで僕たちが見ていたロボットは全部協働ロボットだったのか!」と言うとちょっと乱暴なのですが、それに近い考え方の協働ロボット製品は存在します。

例えば、ABBのSwiftiは協働ロボットというくくりで販売されてはいるものの、安全機能は停止監視・速度監視のみであり、接触検知の機能はありません。
(タブレット型ペンダントや運転モードを表すLEDといった機能は付加されています)
new.abb.com

また、三菱電機は、接触停止機能を備えたMELFA Assistaを発表する以前から、安全センサと従来の産業用ロボットを組み合わせた安全ソリューションを提供しています。
www.mitsubishielectric.co.jp

改めて「"協働ロボット"は一言でくくれない」

"協働ロボット"と呼ばれる製品は、上記2つの間のどこかに位置しています。
UR社やTechMan、JAKA、安川電機のHCシリーズ、FANUCのCRXなどは上記の1~8すべてを備えていると言えます。
ですが、例えば6のタブレット型ペンダントで言うと、URがタブレット型一択なのに対し、安川電機ではオプション扱いだったりなど、若干の温度差があります。
また、FANUCの緑の協働ロボットのシリーズは、5.丸みを帯びたフォルム、片持ちのアーム形状、7.タブレット型ペンダント、8.周辺機器の接続性、はありません。*6
さらに、上記で紹介したABBのSwifitiのような製品も存在します。
協働ロボットと一言でくくることに無理があることが分かっていただけると思います。

したがって、「協働ロボットがほしいんだよね」と言われたとき、どの会社のものでも同じと考えず、
「どのようなシステムを構築したいのか?」という観点から出発し、そのために必要な機能を備えているロボットはどれか?と吟味することが大切だと言えます。

*1:ロボットメーカーが販売するロボットアーム+コントローラの状態

*2:記事の都合上、順不同です

*3:参考:今だから考えたい「協働ロボットと安全」 第3回:ロボットシステム安全化の考え方

*4:実をいうと1だけでもいいような気がしますが

*5:標準搭載かオプション扱いかといった違いはありますが

*6:ネット情報を調べる限りでは