FA・ロボット業界の片隅から

FA業界の片隅のフリーランス機械設計者のブログ。 産業用ロボットウォッチが趣味です。

ロボットの「停止」についてまとめ

本記事は、元々「協働ロボットの『安全適合監視停止』について①~前置き:ロボットの『停止』について~」というタイトルで公開していましたが、
ISO10218シリーズ:2025の発効時に「安全適合監視停止」が協働アプリケーションの要件から外れたため、2025年3月に内容及びタイトルを修正しました。

ロボットの「停止」について説明をしていきます。
停止と一言で言っても、「停止の目的」「どのように停止するか」「どのように停止を維持するか」「停止を解除する条件」というように分解して考えると結構ややこしい話になるため、1つ1つ分解して説明していきます。
主な出典は、ISO10218-1:2025、IEC60204-1:2016(JIS B 9960-1:2019)です。

停止カテゴリについて

まず、「どのように停止するか」「どのように停止を維持するか」を分類する停止カテゴリについて説明します。
これは産業用ロボットに限った話ではなく、機械一般に共通する事柄のため、どこかで聞いた方もいるかと思いますが、「ロボットでは」という補足情報も付け加えていますので、お付き合いください。
IEC60204-1:2016(JIS B 9960-1:2019)9.2.2「停止機能のカテゴリ」を参考に記載しています。

カテゴリ0停止

  • 停止の方法・・即時動力遮断
  • 停止の維持・・動力が供給されないことで維持(ブレーキによる保持)


停止指令が入ると、即時に動力が遮断されて停止し、停止後も動力遮断状態が継続します。*1

即時電力を遮断すると、惰性で動き続けてどこかに衝突してしまうのでは?と思うかもしれません。
ロボットの場合、サーボモータは基本的にブレーキが付いています*2
「無励磁作動」という種類で、通電しているときはブレーキがかからず、電源が落ちるとブレーキがかかる*3というものです。
これにより、電源が遮断されるとブレーキがかかり、短時間でロボットは動作を停止します。
停止後は、ブレーキでロボットの姿勢が保持されます。

カテゴリ1停止

  • 停止の方法・・制動をかけて停止したのち、動力遮断
  • 停止の維持・・動力が供給されないことで維持(ブレーキによる保持)


カテゴリ1停止は、サーボ制御によってロボットを急減速・停止させたのちに、電源を遮断します。
電源遮断後は、カテゴリ0と同様にブレーキで保持をします。

カテゴリ2停止

  • 停止の方法・・制動をかけて停止
  • 停止の維持・・サーボロックによる維持


制動停止し、その後も通電し続けている停止です。

非常停止と保護停止、Normal Stop

Normal StopはISO10218-1:2011では明記されておらず、2025で追加されました。未邦訳のため、原文のままNormal Stopとしています。
ここからはロボットの規格(主にISO10218-1:2025を参照)の内容です。
主に「停止の目的」「停止を解除する条件」についての話になります。
ロボットは、非常停止、保護停止、Normal Stopという3つの停止機能を備えることが規格で求められています*4

非常停止(Emergency Stop )

非常停止は、人にロボットアームが衝突しそうな状況など、まさに非常事態で使用されます。*5
非常停止はカテゴリ0,カテゴリ1のどちらか、つまり電源遮断が必要です。
さらに、非常停止状態からの復帰(運転再開)には、人の手による操作が必須となります。危険が無いことを人が確認したうえでないと運転再開できない、という条件があるわけです。*6

保護停止(Protective Stop)

保護停止は、人を保護するため・リスク低減するための停止機能です。*7*8
カテゴリ0,1,2のいずれかとなります。
保護停止状態からの復帰(運転再開)は、手動操作・PLCの論理回路などによる自動復旧のどちらでも可能です。

停止機能というのは安全に関わる機能ですので、故障率が一定以下・不具合検出機能があるなどの条件を満たしている必要があります。*9
さらに、停止カテゴリ2の場合はmonitored-standstill(監視された停止)であること、という記載があります*10

大雑把な言い方になりますが、カテゴリ0,1の場合は「停止させる」ことを保証すればいいのですが、カテゴリ2停止の場合は「停止し続けている」ことも保証しないといけないためです。*11

Normal Stop

ISO10218-1:2025の5.4.4で規定されています。
日常的に使用される、通常の停止機能と考えればよいと思います。
例えば1日の稼働を終えて運転終了する時や、点検のために電源を落とす時などに使用する停止です。
この停止機能は、停止カテゴリ0または1が必要で、ロボットやその他の危険源となるような機能が停止することが求められます。

まとめ

まとめると、下記の表のようになります。

名称 使用局面・目的 停止カテゴリ 停止中の状態 運転再開条件
非常停止 非常時 0or1 電源遮断 手動によるリセット
保護停止 使用者の保護・リスク低減 0,1or 2 電源遮断(停止カテゴリ0,1)
通電+停止状態の監視(停止カテゴリ2)
手動または自動
Normal Stop 日常的な停止 0or1 電源遮断 適用不可
(停止) 信号待ちなど 通電 手動または自動

ロボットが停止していると一言でいっても、いろいろな状態があり、安全の観点からすると全くの別物です。
※一番下段の信号待ちなどで停止している状態というのは、ワークの在荷信号を待っている状態などです。このような停止は、安全の観点からすると停止しているとは言えず、一見動いていないように見えるだけです。

以前の内容は

修正前の記事はWebArchiveから見ることができます。
https://web.archive.org/web/20250120163910/https://fa-robot-watch.com/entry/about-safety-monitored-stop-of-cobot-1

*1:ちなみに、動力遮断はメカニカルな場合(クラッチで動力側と出力側を切り離してしまうなど)も含みますが、ロボットの場合はサーボモータで駆動していることがほとんどですので、動力遮断と電力遮断はイコールで考えていいと思います。

*2:ロボットアームの要素部品を説明する場合、モータ・減速機・エンコーダと挙げることが多いですが、個人的にはブレーキも非常に大切な要素だと思っています

*3:よくあるのは、ばね仕掛けでブレーキシューが押さえつけられており、電磁石で開放するタイプのものです

*4:ISO10218-1:2025の5.4

*5:ISO10218-1:2025;の5.4.2

*6:余談ですが、ロボットの場合カテゴリ0停止はほとんど使われておらず、カテゴリ1停止で停止します。カテゴリ0停止は各軸の減速度合いをコントロールできないため、ティーチの軌跡から外れてしまって設備と干渉する、停止のショックが大きすぎてロボットが破損する、もしくは把持しているワークが飛んでいくなど、弊害が大きいからです。

*7:ISO10218-1:2025の5.4.3

*8:ISO10218-2:2025では、明確に2つに分けてあるのですが、ここではそこまでは踏み込みません

*9:詳細はISO10218-1:の5.4「安全関連制御システム性能」に記載のある通り、パフォーマンスレベル(PL)か安全度水準(Safety Integrity Level; SIL)を満たしている、もしくはそれと同等の性能を満たしていること

*10:ちなみに、ISO10218-1,-2ではsafety-rated monitored stop(安全適合監視停止)という呼称でしたが、今回の改定で用語が変わりました。能動的に停止しているというニュアンスが強くなったと感じます

*11:余談ですが、通常の産業用ロボットを使ったシステムで安全柵の中に入る場合に、非常停止ボタンを押して入るのが習慣になっている人も多いかと思います(扉のインターロックなどが無い場合)。これは意味合いを考えるとNormal Stopの範疇に入りますが、非常停止ボタンで兼用している運用も多いです。(ロボットが動いている状態からバチンと止めるわけではないので少し違うのですが)規格に厳しい人は「非常停止ボタンっていうのは普段からペシペシ押していいもんじゃないんだよ」と渋い顔をします