FA・ロボット業界の片隅から

FA業界の片隅のフリーランス機械設計者のブログ。 産業用ロボットウォッチが趣味です。

協働ロボット"だから"安全柵がいらないという誤解

「協働ロボットだから柵をつけなくてもいいんでしょ?」というのはよく聞くフレーズです。
が、ここにはいくつかの誤解が含まれていますので、解説していきたいと思います。
※本記事は、私の私見も入っていますのでご了承ください。


誤解1・産業用ロボットには"必ず"安全柵が必要

誤解です。
JIS, ISO, 労働安全衛生法などの関連個所を抜粋してみます。

(運転中の危険の防止)
第九節 産業用ロボツト第百五十条の四
事業者は、産業用ロボツトを運転する場合(教示等のために産業用ロボツトを運転する場合及び産業用ロボツトの運転中に次条に規定する作業を行わなければならない場合において産業用ロボツトを運転するときを除く。)において、当該産業用ロボツトに接触することにより労働者に危険が生ずるおそれのあるときは、さく又は囲いを設ける等当該危険を防止するために必要な措置を講じなければならない。

労働安全衛生規則 第2編 安全基準 第1章 機械による危険の防止|安全衛生情報センターより引用

つまり、必ず安全柵で囲って運転すること、とは記載されていません。
必要な措置を講じること、が求められているのであり、安全センサなどを使って安全を確保しても問題はありません。

(2023.9.21修正)
上記の取り消した文章は間違っていて、リスクアセスメントによって労働者に危害が生じないと判断できた場合は、上記の法律条項に該当しなくなるため、さく又は囲いなどの設置義務がなくなるという解釈が妥当なようです。お詫びして訂正いたします。
本記事の全体の主張としては変更ありません。

参考:https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/dl/pamphlet_140115.pdf

下記の記事での「Coexistence -共存」の事例は、力センサのついてない産業用ロボットでも実現が可能です。
fa-robot-watch.com

おそらく、ロボット初学者に対して、説明を省いて「ロボットは危険なものであり安全柵で囲っている。柵内に入るときは必ずロボットの動力を遮断すること」といった説明がされることも多いため、このような誤解が広まっていると思われます。

柵をつけることよりも大切なことは、危険を洗い出し、そのための適切な対策を吟味することです。
もちろん、多くのケースにおいて、安全柵が一番確実な対策であることは間違いないでしょう。
リスクの洗い出し⇒対策の検討 の結果として柵で囲うというのならばいいのですが、「とりあえず柵で囲ったからOK」の短絡的思考では危険です。
実運用が始まってみたら、インターロックが無効化されたり、その後の設備移動などで扉以外の開口部ができていたりと、グダグダになっている例は多いと感じます。

誤解2・「協働ロボット」というものがある

これを誤解と言い切ってしまうのはちょっと乱暴なのですが、それでも、「協働ロボットというものがあるとは考えない方がいい」というのが私の持論です。

商品群として、確かに協働ロボットというものはあります。
が、まだ世に出て日が浅いこともあり、各社の協働ロボットに対する考え方がバラバラです。
通常のロボットのように、各社のカタログを並べて「安いのを選ぼう・動作が速いのを選ぼう、どれを選んでもやりたいことは実現できるだろう」と思うと後で痛い目を見ると思います。
A社のロボットを採用した場合、追加の安全設備に○○万円かかるが、B社の場合はその倍投資しないと同等の安全性が保てない・・・
もしくは、A社で実現できる協働運転のスタイルが、B社ではそもそも不可能だった・・・というようなことが起こりえます。

そもそも規格上(ISO10218-1やTS15066)、下記のように、人とロボットが協働運転をする場合に必要とされる機能が提示されていますが、
それら全てを備えていないといけないわけではないですし、この機能があれば協働ロボットと呼んでよい、という規定されているわけでもありません。

規格上はISO10218-1(JIS B 8433-1)に「協働運転のために設計されたロボットは、(中略)一つ以上の要求事項に適合しなければならない」と記載があり、さらにISO10218-2(JIS B 8433-2)で「規定された協働作業空間で、人間と直接的な相互作用をするように設計されたロボット」と定義されているため、この2つを併せて考えると、ISO10218-1に記載の4つの要求事項のうちの1つ以上に適合しているロボットが協働ロボットと定義されていると言うことはできると思います。
ですが、これらの機能は、ロボット単体*1で備えている場合もありますし、外部の追加機器が必要になる場合もあります。
もしくは、システムアップ上必要ないものもあります。
(規格に即して正確な表現に修正しました 2023.6.22)

  • 安全適合の監視停止 ⇒ 安全上ロボットが停止する必要がある場合は、ロボットが確実に停止することを(二重監視などで)保証すること。
  • ハンドガイド ⇒ 人がロボットアームを直接保持してロボットを動作させる運用形式(の際の要求事項)
  • 速度と間隔の監視 ⇒ 人とロボットの距離を監視し、距離に応じてロボットを安全な速度に制御すること
  • 本質的設計または制御による動力および力の制限 ⇒ ロボットが一定以上の力を人に与えないように、ロボットにかかる外力とロボットのパワーを制御すること

参考:協働ロボットの安全規格について解説|ISOの内容を詳しく紹介

付け加えるなら、「協働ロボットシステム」という用語を使うことがありますが*2、協働ロボット・システム(協働ロボットを使ったシステム)と理解するよりは、協働・ロボットシステム(協働運転を実現するためのロボットシステム)と理解した方がいいと思います。
つまり、ロボットを使用したい環境・状況を把握してから、その運転環境にマッチするロボットを選定するという正しい順番だということです。

誤解3・「協働ロボットを使えば安全」

完全なる誤解です(自戒の意味も込めて・・・)
協働ロボットを使用していたとしても、運転形態・作業・取り付けるツールによっては危険になりえます。
そもそも論として、協働ロボットを使おうとしているということは、人とロボットが同じ空間で作業をするわけであり、接触の可能性が高まるのですから、危険性がないわけがありません
誤解1の裏返しのようなことになりますが、協働ロボットだから安全=柵が要らない、と短絡的に考えてしまうのは逆に危険です。

知り合いの協働ロボットの開発者が「普通のロボットより協働ロボットの方が危険だ」と言い切っているのを聞いたことがあります。

まとめ

いかがだったでしょうか?
本記事で、協働ロボットだからと言って、手放しで安全が手に入るわけではないということをご理解いただけたら幸いです。

ですが、従来の産業用ロボットを導入するにおいて、本質的なリスクアセスメントをして安全対策を実施した経験がある方であれば、その延長線上に協働ロボットの導入があるということも言えると思います。
従来の産業用ロボットと、協働ロボットは全く別なものではなく、安全を考えるにおいては地続きのものであると思います。

説教臭い記事になってしまいましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。

*1:ロボットメーカーが販売するロボットアーム+コントローラの状態

*2:例えば、中央労働災害防止協会発行の「機能安全活用実践マニュアルロボットシステム編」など参照。https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11300000-Roudoukijunkyokuanzeneiseibu/0000197860.pdf