協働ロボットのハンドガイドとダイレクトティーチの呼称について、整理してみたいと思います。
私は最初、ハンドガイドとダイレクトティーチは違うもの?と勘違いしていました。
先にまとめ
記事を書いていたらかなり長くなってしまったので、先に結論を述べます。
- 規格には「ハンドガイド」がどのような使用形態か、という定義はない。
- 規格には「ダイレクトティーチ(ング)」という用語も定義されていない*1が、「ロボットのエンドエフェクタを手動で導く」教示方法がある、と記載がある。
- 国内(日本語情報)では、下記のような使い分けが一般的。
- ハンドガイド=ロボットのエンドエフェクタに取り付けられたデバイスを持ってロボットを操作し、実際のタスクを実行する(重量物の搬送など)
- ダイレクトティーチ=人間が手でロボットの姿勢を変更し、教示をする
- 英語情報では、Hand guidingでTeachingを意味する場合もあり、若干混乱気味。Direct teachingと言う用語は一般的ではない。
私見ですが、日本での呼び分けの方が適切であると思います。
なぜなら、日本での呼称を使えば、
- ハンドガイド・・定常的に使用。一般作業者が実施。
- ダイレクトティーチ・・非定常作業。ロボット教示できるスペシャリストが実施。
というように、実施頻度・携わる人間が異なる作業を区別できるからです。
ダイレクトティーチが可能なロボットならばハンドガイドの使い方も可能なのでは?と思うかもしれません。
確かに、ハンドガイド"的"に使うことも可能ですが、規格の意図するところ*2や人間工学的な観点から考えると、エンドエフェクタと一体になったハンドル・非常停止とイネーブルスイッチを備えているもの(下記で紹介するFANUCや安川電機のように)が適切だと思います。*3
規格を確認
まずは規格で定義されているか、調べてみましょう。
ハンドガイド
ISO10218-1(JIS B 8433-1)
5.10.3 ハンドガイド に、「ハンドガイド装置がある場合、非常停止とイネーブル装置が(エンドエフェクタの近くに)必要、速度の監視が必要」といった意味合いの記載があります。
しかし、ハンドガイドがそもそも何かと言うことは記載がありません。
TS15066(TS B 0033)
5.5.3ハンドガイド に、ISO10218-1よりも詳しく必要要件が記載してありますが、こちらもハンドガイドが何かという記載はありません。
ダイレクトティーチ
では、ダイレクトティーチについてはどうかと言うと、
ISO10218-1の3.25教示 の中に教示プログラミングは下記の3つのいずれかで行われると記載があります。
- a)ロボットのエンドエフェクタを手動で導く。
- b)機械的なシミュレーション装置を手動で導く。
- c)教示ペンダントを使ってロボットに所望の動作をさせる。
a)がダイレクトティーチに該当すると言えそうですが、ダイレクトティーチと言う用語は使われていません。*4
規格の内容からは、ハンドガイドもダイレクトティーチもあまりピンときませんね。
2023.07.22追記
JIS B 0134の用語内に「直接教示(direct teaching)」があり「ロボットの腕、手などを直接人が動かして教示すること」とありますが、別途「遠隔教示(remote teaching)」の説明が「直接教示の一種であって、ペンダントなどを使用して・・(中略)・・教示すること」と記載されています。
これに従うとダイレクトティーチはペンダントを使っての教示も含む、広い意味になってしまい、業界での用語の使われ方といまいち一致しません。
なお、この2つの用語の定義はJIS独自のようです。
各メーカの呼称(国内)を確認
では、ロボットメーカーがどう呼んでいるか確認してみましょう。
安川電機
ハンドガイド
重量物を搬送するための使用形態として、ハンドガイドを紹介しています。
ダイレクトティーチ
教示の手法の1つとしてダイレクトティーチングがある、と紹介されています。
産業用ロボットの導入とティーチング | 産業用ロボット | 製品・ソリューション | 安川電機
人協働ロボットであればダイレクトティーチングでアームを直接握ってポイントを覚えさせることでプログラムの生成ができます。
~上記サイトから引用 ~
FANUC
ハンドガイド
こちらも、重量物を搬送するための使用形態として、ハンドガイドを紹介しています。
~https://www.fanuc.co.jp/ja/product/catalog/pdf/robot/RCR-35iA%28J%29-02c.pdfより画像引用~
ダイレクトティーチ
安川電機同様、ダイレクトティーチングという用語を使っています。
協働ロボットCRX操作コース - ファナック株式会社
このために、協働ロボットCRXを使用して、簡単なダイレクトティーチの方法、タブレットTPの基本操作方法、およびシステム運転と日常点検の方法などに関し、説明と実習を行います
~上記サイトから引用 ~
DENSO
ダイレクトティーチ
誰もが使いやすいティーチング|製品情報|COBOTTA PRO|デンソーウェーブ
直感的に短時間で教示できるダイレクトティーチングの良さを活かすため、
~上記サイトから引用。一部省略~
国内での使い分けのまとめ
このように、日本国内の情報を見ると、
- ハンドガイド=人間が手でロボットを導きながら、実際のタスクを実行する(重量物の搬送など)
- ダイレクトティーチ=人間が手でロボットを導きながら、教示をする
という使い分けになっているようです。
世の中の例(英語)を見ていくと
では英語での例を見てみましょう。
KUKA
教示に使うデバイスの紹介で「Hand guiding」という用語を使用しています。
Programming robots: hand guiding with KUKA ready2_pilot | KUKA AG
YASKAWA
見出しに「Direct Teaching」とありますが、補足的に「Hand-Guided Collaborative Teaching」と記載しています。
Robot Programming Products - Teach Pendants, Software and Direct Teaching
FANUC
教示の手法として「Teaching a robot using hand guidance」と記載があります。
Collaborative robot Hand Guidance function - Fanuc
不二越
教示の手法(オプション)として「Direct teaching」と記載。*5
NACHI Robot Option : Direct teaching
英語情報のまとめ
このように、英語の情報を見てみると、ダイレクトティーチと言う用語を使わないメーカーもあります。
Teaching robot with hand guidingというような呼称になっています。
「Robot direct teaching」とGoogle 検索しても、あまりロボットメーカーの情報は少なく、論文などが多く出てくるため、FA業界ではDirect teach(ing)の呼称が一般的ではないのかもしれません。
*1:2023.07.22追記 JIS B0134の用語の定義に直接教示(direct teaching)があるが、世間で使われているダイレクトティーチとは少し違う意味合い
*2:ISO10218-1には「ハンドガイド装置を備える場合、非常停止とイネーブル装置を備えており、エンドエフェクタの近くにないといけない」と若干解釈に幅のある書き方になっています
*3:ハンドガイドの意図として、重筋作業を軽減することがありますので、可搬重量が小さい協働ロボットでハンドガイドを実施しても意味がないとも思います
*4:ちなみに、c)が一般的なティーチング手法ですね
*5:ロボットは協働ロボットではありません