FA・ロボット業界の片隅から

FA業界の片隅のフリーランス機械設計者のブログ。 産業用ロボットウォッチが趣味です。

協働ロボットは市場に定着するか(双腕ロボットの二の舞にならないか)

最近脚光を浴びている協働ロボットですが、今後この勢いで盛り上がり続けるか、逆にしぼんでいくのか、考えてみました。

双腕ロボットが流行った時期があった

2015年~2017年をピークに、双腕ロボットブームというものがありました。*1
参考出展も含め、様々なメーカが様々な双腕ロボットを出していました。

  • NEXTAGE(カワダロボティクス)・・・ロボット展は2011で初出展。現在も販売中。
  • Yumi(ABB)・・・2015年発売開始。販売中
  • W-01(EPSON)・・・初出は2015年国際ロボット展だったと記憶。2017年販売開始。2020年販売終了。
  • SDA(安川電機 )・・・2017年国際ロボット展で参考出展。現在販売中。

このように、各社双腕ロボットを発表・発売しましたが、その後それほどの広がりを見せず、一部の製品が生き残っているにとどまっています。
当時、双腕ロボットのメリットは下記のように言われていましたが、いずれもハテナ?がつくものでした。

  • 人に親しみを持たせるデザイン ⇒確かにその通りだが重要度は低い。なんだかんだ慣れる。
  • 2アームの協調動作で複雑な作業 ⇒2つロボットアームを並べて使うのと同じ。むしろ制御できちんと同期して動作できるかの問題
  • 省スペース性 ⇒胴体があるので、それほど省スペースでもないことも

結局のところ、ユーザサイド・開発/販売サイドの双方にとって、2本のアームを並べて使うことに対しての明確なメリットがなかったのだと思います。*2

ハイプサイクルに当てはめて考えてみる

ハイプサイクルとはある新技術が市場に受け入れられ、実用化されていく際の流れを示したものです。

  1. 黎明期・・技術の誕生
  2. 流行期・・「これはすごい技術だ!乗り遅れるな!」の時期
  3. 幻滅期・・「思ったより使えないな~ 一発花火だったか...」の時期
  4. 回復期・・「こういうニーズにはマッチするな~使ってみる?」の時期
  5. 安定期 ・・普通に選択肢の1つとして存在する時期

詳しくはWikipediaなど
ハイプ・サイクル - Wikipedia

双腕ロボットはどうだったか

双腕ロボットについて考えてみると、回復期でそれほど盛り上がらず、1つのジャンルとして定着するのに失敗したように思います。
もちろん、全く見ないわけではないですが、非常にニッチなところにとどまっています。*3
図で書くとこんな感じです↓

協働ロボットはどうか

では、協働ロボットはこのサイクルのどこにいるかというと、流行期が終わりつつある段階だと思います。
「これからは何でも協働だ!」という段階を過ぎ、「全部に使えるわけではないな・・」と認知されると同時に、「こういうケースで使えば有用だ」という知見もできつつある状況です。
ただ、幻滅期でもそれほど大きく凹むことなく、産業用ロボットの一つのジャンルとして定着すると思います。

私がそのように考える理由は幾つかあります。

国際規格化されている

ISO10218-1:2011/TS-15066として、協働ロボットの運用が規定されています。
新しいジャンルの商品というのは、購入する側からすると「得体のしれないもの」という不安感を持ってしまいがちですが、
規格になっているということは、強いお墨付きであり、購入するユーザに安心感を与えるものだと思います。
*4

Universal Robot社がスタンダードを示した

UR社は「協働ロボットとはこういうものだ!」という姿を示しました。
外観・機能・ユースケース・周辺機器との連携など、いずれにおいてもUR社は完成度が高く、それを基準に他社が取り囲んでいるかのようです。
ユーザもUR社のロボットを見て「協働ロボットはこういうものだ」と理解したうえで、「URに対して、A社はここがいい、悪い」という比較ができます。
UR社は協働ロボットという市場を作り、受け入れられる土壌を作り上げてしまったのです。

10年以上に渡って新商品がどんどん登場している

2023年現在、Universal Robot社が精力的に新商品を出し続けていることに加え、従来からの大手ロボットメーカ(FANUC, 安川電機など)も新商品を出し続けています。中国をはじめとして新興のロボットメーカが多数登場していることも見逃せません。
Universal Robot社が最初の協働ロボットを発売したのが2009年で、それから10年以上過ぎているにもかかわらず、この勢いがあるということは、「協働ロボット」というコンセプトが、販売サイド・ユーザサイドの両方から受け入れられているということの証しだと思います。
ラインナップの取捨選択・新興メーカの淘汰などが今後起こると思いますが、ある程度のところで落ち着くと思います。

まとめ

いかがだったでしょうか。
10年以上経ったとはいえ、協働ロボットはやはりまだまだ新商品だと思います。
今後、いったん熱が冷めていくフェーズがあるとは思いますが、1つのジャンル・選択肢として定着していくと思います。

*1:私が勝手に呼んでいるだけですが

*2:あくまで私の見解です

*3:もちろん、ハマる用途には強いと思います

*4:協働ロボットの定義については過去記事も見てください。協働ロボット"だから"安全柵がいらないという誤解 - FA・ロボット業界の片隅から