FA・ロボット業界の片隅から

FA業界の片隅のフリーランス機械設計者のブログ。 産業用ロボットウォッチが趣味です。

安全対策をすると作業者が危険な行動をとり始めるという話

4月から自転車乗車時のヘルメット着用が努力義務となりましたが、
関連記事で、興味深いものがありましたのでご紹介します。
merkmal-biz.jp

イギリスの法律上、自転車でのヘルメットは任意なのだそうですが、
その一因として、ヘルメット着用が安全につながるわけではないから、という意見があるそうです。

 車のドライバーには、
「ヘルメットを付けるようなサイクリストは、経験豊富で予想外の動きをしない」
という先入観があり、衝突の危険度が高まる傾向にあるという。
※上記記事より引用

人は環境が整い、安全度が高まると、「危険な行動を取って安全を相殺してしまう」ことがよく起こる。
※上記記事より引用

記事内では、「ヘルメットを被っている人=自転車に乗りなれている人だからより安全だろう」と自動車のドライバーが判断し、追い越し時の安全距離が短くなる傾向があると紹介されています。
つまり、ヘルメットによって事故時の受傷度合いを多少軽減できるかもしれないが、事故発生の可能性を上げてしまうため、トータルとして安全性が向上するとは言えない、ということです。*1
リスクというのは危害の大きさと発生確率を乗じて評価されますので、その両方を考えないといけません。ヘルメットを着用すれば、事故が起こったときにケガの度合いを軽減できるというのは、簡単に思い至ることですが、さらに一歩踏み込んでヘルメットが事故の発生確率に影響を及ぼさないか?という議論も必要です。

確かに、自分自身を振り返ってみても、高齢の方が自転車でふらふらしながら走っているときは大きく距離をとり、比較的若い方がしっかりとした足取り(?)で走っているときはそこそこの距離、と、無意識に行動を変えていることに気づかされます。
同様に、ヘルメット着用が安心感を与えてしまい、逆に事故の確率を上げることにつながってしまうのもあり得ることでしょう。

このような行動傾向は、行動心理学の用語では「リスク補償」と呼ばれているそうです。

職場の安全を考えるうえでも、この「リスク補償」という行動原理を意識することが大切だと感じます。

例えば・・・

例1: 作業ヘルメットを被った時は頭上不注意になる

作業時の頭部保護について、作業帽とするか作業ヘルメットとするかは、会社によりけりなのですが、ヘルメットで作業しているときは意外と頭をぶつけることがあります。
逆に、何も被っていない・作業帽の時はぶつけない気がします。
ヘルメットを被ることでやはり油断が生まれているのだと思います。

例2: 協働ロボットには躊躇なく近づく

私は協働ロボットといえど、産業用ロボットに変わりないと思っているので、できる限り近づかないようにしているのですが、
協働ロボットなんだろ?と言ってグイグイ近くに行く人がいます。
適切にセットアップされた協働ロボットならば、いい*2のですが、試運転中でセンサ類が未接続の場合など、人の接近を検知しないかもしれず、ロボットに近づくというのはハイリスクな行動であることに違いはありません

例3: 手袋をしていると、エッジを気にしなくなる

エッジから手を守るための手袋なのですが、いかに革手といえど切れる時は切れます。
絡まった切子を除去しようとして、革手で掴んでグッと引っ張ってしまい受傷した、という事例を聞いたことがあります。
これは、安全対策をしていたにもかかわらずケガをした、とも言えますし、安全対策をしていたからこそ危険な行動を誘発してしまいケガをした、とも言えると思います。

まとめ

安全対策をするということは、ある意味では「利便性のために危険に接近できるようにする」という側面があると思います。
頭をぶつける可能性のあるところ作業ができるようにヘルメット着用をルール化する、ロボットの近くで作業できるように協働ロボットを採用する・・・など。
ですが、「リスク補償」という心理的傾向があることを踏まえ、対策をしたからと言って危険源が消滅しているわけではない、ということを周知徹底していくことも大切だと感じます。

*1:その他、ヘルメットでは脳震盪を防げないことなども記載されていますが、ここでは取り上げません

*2:とも言い切れないですが