Universal Robot社が展開する、「UR+」がロボット業界に与えた衝撃について書いていきたいと思います。
前置き
前置きとしてプラグ・アンド・プレイというものについて書いていきます。
知ってるよ~という方は読み飛ばしてください。
プラグ・アンド・プレイとは
もはや当たり前すぎて死語になりつつあるような気もしますが・・・
USBポートがPCに標準搭載され始めたころ、マウスなりキーボードなりの機器を使うときは、ドライバーを自分でインストールしてから機器を接続する必要がありました。
ドライバーってなに?というような、パソコンにそんなに詳しくない人からすると、これだけでも一苦労です。
ですが、徐々に、ドライバーのインストールが自動化され、つなぐだけで使える機器が増えてきました。
プラグ・アンド・プレイは、「難しいことをしなくても、つなぐだけで使えますよ~」と、その利便性をアピールするためのフレーズだったわけです。
ロボット業界のプラグ・アンド・プレイ
みなさんご存じのように、ロボット(ロボットアーム+制御装置)は単体では仕事ができません。
ツールを始めとして、いろいろな周辺機器を接続する必要があります。
このメーカーのロボット、このメーカーのハンド、このメーカーの走行装置・・・などなど、1つ1つ仕様や接続方法を調べ、場合によってはPLCなどを介して、連携させる必要があります。
昔のパソコンと同じですね。
ですが、簡単な手順だけで、あたかも最初から一式の製品であるかのように使える仕組みが提供され始めています。
これを私は「ロボット業界のプラグ・アンド・プレイ」と呼んでいます。
(さすがにつなぐだけ、というわけにはいかないですが)
この仕組み、Universal Robots社が「UR+」という名称で先駆けて構築しました。
各ロボットメーカは、以前から特定の用途に向けたパッケージ化や、個別の周辺機器への対応はしていました。
例えば、カメラをつないでの視覚機能をパッケージにする、ですとか、DAIHENやPanasonic*1が溶接向けのパッケージを提供する、等です。
ですが、UR+はそれまでとは一線を画すものでした。
【本題】UR+のなにがすごいか
さて、ようやく本題です。
UR+の何がすごいかというと、エコシステムを構築していることです。
それまではどちらかというと、ロボットメーカー側が、需要の多そうな周辺機器に対応するという形が多かったです。*2
「このメーカーの視覚装置は多く売れているようだから対応しよう」「このハンドは多く売れるようだから対応しよう」、というようにメーカー主導のスタイルです。
ですが、UR+では、まったく逆のアプローチです。
「URの制御装置につなげられるソフトの仕組みを提供するから、つなげたい周辺機器メーカーは頑張ってね」というスタイルです。
周辺機器メーカーが「つなげられるようにしました!」というと、UR社は「どれどれ、ちゃんとできてるかな?」と言って確認し、大丈夫そうならお墨付き(UR+認証)をあげるという、まるでパソコンと周辺機器のような関係性です。
これがうまくはまると、
⇒ ロボットが売れているので、周辺機器メーカーも対応に積極的になる
⇒ より周辺機器が充実する
⇒ ・・・
身近な例で言うと、iPhoneも同じスパイラルがあります。*3
⇒ iPhoneが売れるから、いろんな人がiPhoneカバーを作る
⇒ より沢山のおしゃれなカバーが市場に出回る
⇒ ・・・
この衝撃を示すように、他社も同様のエコシステムを構築しようという動きがみられます。これについては別の記事でまとめています。
fa-robot-watch.com
歴史は繰り返す
このような風向きの変化、どこかで見たことはありませんか?
そう、コンピュータの歴史です。
コンピュータが登場した当初は、汎用機(メインフレーム)と言って、大きなコンピュータを皆で使うスタイルでした。*4
ソフトもそのコンピュータ専用*5に作成する必要があるなど、メーカー主導の側面が強いものでした。
ですが、その後、Windowsの登場に象徴されるように、コンピュータが個人に近いものになり、様々なメーカーが提供する様々な周辺機器・ソフトも登場し、皆が好きなようにPCを使うことができるようになりました。
メインフレームを主力としていたメーカーで、その流れに追随できなかった会社の業績は悪化していきました。
かなり大雑把に書いたので、細かいところで突っ込みどころがあるかもしれませんが、
「ある製品のポジション・売れ方が変わる中で、業界の変化にいち早く対応したメーカーが市場を席巻する」という流れは、産業界で何回も起こってきたことです。
もちろん、コンピュータは個人消費者向け、ロボットは生産財、という大きな違いがあるので全く同じ道を歩むとは言えませんが、かなり既視感のある動きだと思います。
Universal Robot社の思想
UR社は、このような業界の変化を自ら先導し作り出しているように見えます。
その背後に、UR社の理念があると思います。
下記は元UR社社長のインタビューです。
私のプレゼンテーションではいつも、”Empowering People 人々に自立する力を与える”という我々のビジョンを語ることから始めます。
(中略)
使いやすくて協働的な新しい自動化技術を活用すれば、人々に自立する力を与えることができ、素晴らしいことを成し遂げる一助になれるという潜在的な可能性に気づいていたのです。そのビジョンは今も変わりません。
~ユニバーサルロボット前社長VON HOLLENへのインタビューより引用~
UR社はただ協働ロボットを作って売る会社ではなく、
「ロボットは使いやすく、いつも人に近くにあり、人に力を与えるものであるべき」という強烈なビジョンに基づいて製品や販売モデルを設計しているということです。
これは、アラン・ケイ氏*6が、「人間の知的活動を支援するためのパーソナルコンピュータ」を提唱したことと似通っています。
終わりに
最後の方は少し抽象的な話になってしまいました(汗
このように、UR+を先駆けとして、他のロボットメーカーにも同様の展開が広がっています。今後、どんどんロボットが生産者・モノづくりをする人にとって身近で使いやすいものになっていくだろうと思います。
が、逆に、この動きに追随できないメーカーは、かつてのメインフレームベンダーのように、縮小していく市場の中で身動きが取れなくなっていく可能性も十分にあると思います。*7