FA・ロボット業界の片隅から

FA業界の片隅のフリーランス機械設計者のブログ。 産業用ロボットウォッチが趣味です。

ロボットの機構(5)~パレタイズロボット~

パレタイズロボットとは

物流で使われるパレット。

そのパレットに箱や袋を積み上げることをパレタイズと言います。
逆に、パレットに積まれてきた箱や袋を降ろすことをデパレタイズと言います。

そのパレタイズ・デパレタイズ作業に使われる専用ロボットをパレタイズロボットと言います*1


パレタイズロボットの特徴

パレタイズはロボットの用途の1つであり、通常の産業用ロボットでも作業が可能なのですが、パレタイズ専用ロボットも販売されています。
その理由について説明します。
通常のロボットは空間内の位置の3自由度と姿勢の3自由度に対応するために6つの軸を備えているのが一般的です。
しかし、パレタイズ用途では、ロボットの手首は常に下向きで、手首の姿勢のロール・ピッチ・ヨーの3つの内、ヨーしか使いません。
パレタイズ作業においては4自由度しか必要ではないということです。
そのため、無駄な軸は省いてしまおう、その代わり軽量化・高速化・低コスト化を図ろうというのが、パレタイズ専用ロボットです。

パレタイズロボットの形式1

パレタイズロボットの1つの形式が、5軸ロボットです。
これは、通常の6軸ロボットからロール軸(第4軸)を取り去ったものです。
(※本ブログで使用している用語や図示法についてはこちら:本ブログでのロボット模式図について - FA・ロボット業界の片隅から


一見5自由度ですが、ピッチ軸(第5軸)は第2軸、第3軸の動作を打ち消すように動作して、手首下向きをキープしているので、実質的には4自由度で動作しています。
通常の6軸ロボットから1つしか駆動軸が減っていないため、軽量化・低コスト化の効果も小さいですが、小改造なので通常のロボットとの部品共通化などのメリットがあると思われます。

下の写真は、KUKAのパレタイズロボットです。


KR QUANTEC PA | KUKA AGより引用

通常のロボットのように見えますが、ロール軸がなく、また、手首の部分がパレタイズに最適化されています。

パレタイズロボットの形式2

2つ目の形態は、リンク機構を使って、手先の姿勢をキープするものです。
別の記事で、リンク機構には角度を保つという役割があると書いたことを覚えていますでしょうか?

覚えていない方はこちらの記事をチェックしてみてください。
fasumi.hatenablog.com

パレタイズロボットでは、そのリンクの機能を活用しています。
模式図を描くと、このようになります。

斜めからの図がこちら。(わかりやすく描くのが難しいですね...)

大地から、上下2本のリンクを介して、手首の姿勢を常に水平に保つようにしています。

これにより、第2軸、第3軸がどのように動作しても、手先は水平を保つことができます。

第3軸を下に傾けても・・・

さらに第2軸を前方に傾けても・・・

このように、手首のロール・ピッチが変わらずにキープされていることが分かると思います。
(冒頭の動画も併せて見てみてください)

第3軸平行リンク機構との合わせ技

また、この手首水平キープのリンク機構と、第3軸を平行リンクを介して動作させる機構は同時に使われることもあります。
(冒頭の動画内のFANUCのロボットがそうです)

その場合、模式図はこのようになり、背中に2本のリンクを背負った形になります。

(さらに図がごちゃごちゃに・・・)

下記のABBのパレタイズロボットの写真が分かりやすいと思います。


ABBの新しいロボットデパレタイザソリューションは、効率性を向上させながら物流の複雑さを軽減しますより引用

パレタイズ専用機のデメリット

パレタイズロボットは自由度を捨ててコストダウンや高速化を図っています。
そのため、ワークの姿勢(ロール・ピッチ)を微調整するということができません。
アームのしなりなどを打ち消すように制御して、ぴたっと水平にものを置きたい、といったことは不可能です。
段ボール箱や袋物のような、そこまでシビアなハンドリングを求められない用途で使われるロボットということになります。

まとめ

今回はパレタイズ専用ロボットについて説明しました。
専用機があるということは、現段階でもある程度の需要があるということなのですが、今後物流業界へのロボットの進出が進むにつれて、パレタイズロボットの存在感がより一層増してくると思います。

*1:パレタイザーなどとも呼ばれます