FA・ロボット業界の片隅から

FA業界の片隅のフリーランス機械設計者のブログ。 産業用ロボットウォッチが趣味です。

Mujinのビジネスモデルについて

2023国際ロボット展を見学して、一番印象に残ったMujinについてまとめました。
全体の感想は別でまとめたいと思います。

Mujinとは

2011年に設立され、ロボットのモーションプランニングを技術の核とする会社です。
資本金一億円、従業員数は306名です(2023年6月現在)
会社概要・沿革 | 株式会社Mujinより
採用活動も活発に行っており、従業員数はどんどん増えている印象です。


Mujinの製品はコントローラ

Mujinのコア製品はモーション生成のコントローラです。
FANUCや安川電機などのロボットメーカのロボットアームと制御装置を購入し、上位のコントローラとしてMujinコントローラを接続します。
参考:ロボットを知能化するコントローラーから完全無人倉庫設計コンサルまで MUJIN滝野氏がロボデックスで講演 - ロボスタ

ロボットメーカからすると、せっかく用意した制御装置の豊富な機能は活用されず、ほとんどモータドライバとして使われるだけになってしまいます。

Mujinの基本スタイル

今回の展示で見る限りは安川電機のものが多かったようですが*1、下記のページを見てわかるように、オムロン、川崎重工、DENSO、FANUC、不二越、三菱電機、安川電機、ABB、KUKAと主要なメーカはほぼカバーしています。*2
パートナー | 株式会社Mujin
有名どころで名前が無いのはUR、エプソン、 YAMAHA、ダイヘンくらいでしょうか。*3

守備領域をどんどん広げている

数年前からMujinという会社を耳にはしていましたが、当初はパレタイジング・デパレタイジングのためのモーション生成ソフトの会社という印象で、それほど存在感は感じませんでした。
ですが、AGVとの連携、コンベヤなどの周辺機器の制御もカバーするなど、その守備範囲をどんどんと広げており、1つの倉庫全体を統合して管理できるまでになっています。

大きな話題で言うと、イオンの物流倉庫などでの採用実績があるようです。
下記プレスリリースも出ていますし、会場の講演でも触れられていました。
イオンとMujin、イオングループ物流構造改革に関するパートナーシップ締結について | 株式会社Mujin

Mujinのハード開発は限定的

先ほども書きましたが、Mujinは自前でロボットアームを設計・製造はしていません
デパンニング(トラックからの荷物運びだし)の独自ロボットを展示していたことから、メカや電気のハードウエア開発チームもそれなりの規模だとは思いますが、
おそらくは「世の中にないものは作る、買い物で済ませられるものは買い物で」というスタンスだと思います。

あくまでコア技術はソフトウエアとシステム構築であり、今後もロボットメーカからロボットアームを購入する体制は変わらないでしょう。


ロボットメーカの商売あがったりの可能性

では、各ロボットメーカは「Mujin経由でロボットが売れてよかったね」と喜んでいていいのでしょうか。

製造業全般で言えることですが、ハード物(メカ・電気)は1個ごとに原価がかかりますが、ソフトウエアは開発リソースが主な原価のため、売れれば売れるほど利率が上がります。
ですが、Mujinのシステムを使用する場合、ソフトウエア、カメラや他設備との連携、稼働状況モニタリングといった上位層はMujin製品になってしまうため、各ロボットメーカはハードしか販売できません。
Mujin経由でロボットは売れても、利益があまり伸びないという状況になってしまいます。
現段階ではMujin案件のロボット販売台数は限定的だと思いますが、今後のMujinシステムの普及に対して各ロボットメーカはかなりの危機感を抱いているはずです。
では、Mujinの対応メーカから外れればいいかというと、販売台数の減少にもつながりかねないため、かなり悩ましい状況でしょう。
Mujinシステムが広く普及すればするほど、ロボットメーカの商売の幅が狭まりますが、Mujin経由でロボット自体は売れ続けるため、生かさず殺さずのような状況に陥ってしまうかもしれません。

ロボット業界のあり得る未来

Mujinのコア技術はモーションプランニング(知能化)ですが、「各ロボットメーカのブランドをはぎ取ってしまい、Mujin色に染めてしまう*4」というビジネスモデルこそが脅威です。*5

まとめ・Mujinの他分野への進出はいつか

現状、Mujinはパレタイジング・マテリアルハンドリングのような物流業界をメインで伸びています。溶接やシーリング、加工といった生産工場内での用途には本格進出していませんが、今後どうなるかは分かりません。

物流や小売り業界は

  • もともとロボット導入が進んでおらず、ノウハウがない企業が多いこと
  • 混載なども多くMujinコントローラのメリットが活かしやすい
  • ロボット活用は企業の価値創造の主軸ではないため、企業側がシステムを買うことへの心理的抵抗が小さい
  • そもそも人手不足で業務効率化の緊急性が高い

といった特徴があり、Mujinが進出しやすい条件があります。
「まずは物流業界で地位を築き、その後他分野への展開。ゆくゆくはロボットが使われるあらゆるシーンにMujinを」という青写真を描き、虎視眈々とチャンスを狙っている気がします。*6
そうなった場合、上記で書いたようにロボットメーカが日陰に追いやられるような状況は十分にあり得ます。

大手自動車メーカーや大手家電メーカなどは、

  • ロボットを使い慣れている
  • ロボット活用=生産技術であり企業のコア技術の一翼

という事情があるため、Mujinパッケージの導入にはかなり抵抗があるはずです。
それでもあえて、Mujinを導入するような会社が現れれば、ロボットの台数という意味でも、ロボット業界の潮流という意味でも、かなり大きなインパクトだと思います。

また、現状は多くのロボットメーカがMujinに対応(供給)していますが、今後Mujinが脅威になってきたときに、

  • パートナーを辞める(Mujinへのロボット供給をストップする)メーカ
  • 利率が薄いことを承知で供給を継続するメーカ

と対応が分かれるかもしれません。*7

繰り返しになりますが、Mujinのすごさは、技術力もさることながら、産業用ロボット業界を全部カバーしてやろうという勢いとビジネスモデルです。
各ロボットメーカからしたら脅威ですが、ユーザ目線ではこのようなシステムが広まることは喜ばしいことです。
今後も動向を注視していきたいと思います。

なお、ロボット展のMujinブースではPLCレスということもアピールされており、関連企業の影響も大きそうですが、私はPLC業界の知識は薄いため本記事では触れませんでした。

*1:ロボットオタクなので、形状からどこのメーカか判別できるという特技があります

*2:パンフレットには安川電機とFANUCのロボット型番が代表例として記載してありました

*3:なお、名前がないのは技術的な問題ではなく、ビジネス的・政治的な事情が大きいと思います

*4:アームの色だけではなく、操作性や他設備との連携といった特徴も含めて

*5:各社のロボットをMujinのオレンジに塗装してしまうのも、イメージ戦略として非常に有効だと思います。FANUCや安川電機がよく了承したな、と思っています

*6:会社のスローガンが「すべての人に産業用ロボットを」です

*7:辞めるに辞められない状況になっているメーカもあるかも・・・