垂直多関節ロボットの設置形態について紹介します。
- はじめに
- 床置き設置(Floor mount)
- 天吊り設置(Ceiling mount)
- 壁掛け設置(Wall mount)
- 傾斜設置(Angled mount)
- 棚置き(Shelf mount)
- まとめ
はじめに
産業用ロボットは地面に設置して使うだけではなく、いろいろな設置方法をとることができます。
大きく分けると以下の5つです。
- 床置き
- 壁掛け
- 天吊り
- 傾斜
- 棚置き
棚置きは床置きと似ているのですが、ロボットと作業空間の位置関係が異なるため分けて考えています。
床置きが最もシンプルで事例も多いのですが、あえて床置き以外を選択する時は、
- ロボットが得意な動作範囲と、作業でよく使う範囲を一致させておきたい
- ロボット自身との干渉を避けたい
- 他の設備をかわしてロボットを動作させたい
といった事情が絡んでいることが多いです。
ですが、設置形態によって架台(ロボットベース)の大きさ・コストにも影響があるため併せて検討が必要です。
また、設置形態を考える際に注意しないといけないのが、第1軸(1番根元の軸)の負荷です。
床置きと棚置きの場合、第1軸の動作には重力が作用せず、慣性だけが負荷となります。
ですが、据え付けの角度を変化させていくにつれて、第1軸への負荷としての重力が大きくなります。
傾ける角度で比べると、
床置き(0度) < 傾斜(0度より大きい~90度未満) < 壁掛け(90度)
となり、第1軸の負荷もこの順番で大きくなります。
第1軸への負荷が大きいため、動作角度に制限がかかったり、動作が遅くなったりする可能性があります。
では、個々の設置形態を紹介していきます。
床置き設置(Floor mount)
地面や作業エリアと同じ高さ*1に設置する方法です。
ほぼ全てのロボットがこの設置方法を選択することができ、一番オーソドックスな据え付け形態と言えます。
架台もシンプルなものが使えますし、ロボットの据え付けの際も、ロボットを反転させたりといった必要がありませんので、簡単です。
なお、ロボットメーカーの保守説では、据え付け面の水平度を規定していることが多いです。
(プラスマイナス2度以内など)
イメージ図は設置面と作業エリア(斜線部)の関係です。
第2軸の動作範囲は前後80°ずつ、第3軸の動作範囲は下側アームに対して下方80°、上方140°の場合を想定しています。
「主な作業空間」はそこしか使わないということではなく、その場所での動作を特に重視して、この設置方法を選ぶということです。
(以降同じです)
天吊り設置(Ceiling mount)
180°ひっくり返して、天井からぶら下げる据え付け方です。
この据え付けのメリットは、ベルトコンベア上のワークをピックするときなど、作業空間の真上にロボットを配置することで、床面積を節約することができることです。
ロボット自身とアームが干渉しづらいので、第1軸を大きく回すことなく、水平方向に大きく動作することができます。
ただし、デメリットとして大がかりな架台が必要になります。
第1軸の動作時の負荷が床置きと同じなので、傾斜・壁掛けができないロボットでも天吊りは可能とされていることもあります。*2
ただし、メーカーが天吊り不可としているならば、それに従うべきです。
それを無視して天吊りで使用すると、第1軸周辺の構造体の力の方向が完全に逆になっているため(圧縮⇒引張)、思わぬ形でロボットが壊れる可能性があります。
壁掛け設置(Wall mount)
設置面が垂直になる設置方法です。
ロボットの固定箇所よりも下側を主な作業領域にしたい場合、この設置方法にすることが多いです。
メリットは天吊りと似ていて、床面積の節約、前後方向の動作が得意といった点が挙げられます。
ただし、第1軸に重力がかかるので、第1軸を使う動作(ロボットの左右方向)では、動作速度が上がらない可能性があります。
また、ロボット仕様によっては、第1軸の動作量に制限がかかることもあります。
傾斜設置(Angled mount)
傾いた面にロボットを据え付ける方法です。
ロボットは自分自身に近い空間(フトコロ部分)の動作は苦手です*3が、傾斜設置にすることで、フトコロ部分の動作がしやすくなります。
デメリットとしては、壁掛けほどではないですが、傾斜がきつくなるほど第1軸の負荷が大きくなるため、第1軸の動作速度が遅くなることです。
設置面の角度制限がある機種も多いです。
棚置き(Shelf mount)
力学的には床置きと変わらないのですが、作業エリアよりも高い位置にロボットを設置する場合、特別に棚置きと呼ばれます。
通常のロボットを使用する場合もありますが、通常のロボットでは設置面よりも下側の動作領域はそれほど広くないので、専用設計になっている機種が存在します。
イメージ図は、専用機を想定して第2軸の動作範囲は前に180°・後ろに45°、第3軸の動作範囲は下側アームに対して下方80°、上方140°の場合で描いています。
棚置き専用機は、第2軸の下側動作量を確保するために、第1軸と第2軸のオフセットが大きいという特徴があります。
例としては、安川電機のMOTOMAN GP300Rなどがあります。
ハンドリング(搬送・組立・検査)ロボット - MOTOMAN-GP300R - 仕様 - 産業用ロボット | 安川電機の製品・技術情報サイト
壁掛けと棚置きは、似たような動作範囲を狙っていることが多いです。
まとめ
いかがだったでしょうか。
ロボットの設置方法で、ロボットの動作範囲をうまく使えるかどうかや、ロボットシステムのレイアウトが決定づけられるので、初期段階で十分に検討する必要があります。
この記事がその際の助けになれば幸いです。