FA・ロボット業界の片隅から

FA業界の片隅のフリーランス機械設計者のブログ。 産業用ロボットウォッチが趣味です。

協働ロボットの衝突試験(接触力測定)について②(測定装置・方法など)

前回の記事はほぼ規格の説明になってしまいましたが、後半の今回は実際の測定について紹介していきます。
①を未読の方は、まずはこちらからどうぞ。
fa-robot-watch.com

測定装置の概要

前回の記事でいろいろパラメータがあることは分かったけど、測定は具体的に測定はどうするんだ?と感じると思います。
下記のような、協働ロボットとの接触の測定を紹介している論文がありましたので、これを参考に説明してみます。
www.nist.gov

測定装置の模式図は、下の図のようになります。

測定装置模式図

後ほど紹介しますが、製品として販売されている測定器も基本構造は変わりません。
スライド部分にLMガイドを使うかブッシュを使うか、測定器の形状がどうかといったところで違いが出ている程度です。

使用している要素について説明していきます。

力センサー・圧力センサー

あまりにサンプリング周期が長いと、力のピークを取り逃がしてしまうため、ある程度の時間分解能が求められます。
また、過渡的接触の時間は0.5秒未満と決められているので、やはり粗すぎるサンプリング周期では無理があります。
とは言っても、1マイクロ秒くらいであれば十分かと思います。
センサーは必ず2つ取り付ける必要はなく、力の測定だけを実施する場合、圧力センサは省略できますし、逆も可能です。

※なお、ドイツの独自のガイドラインで、ロボットとの衝突面にゴムを取り付けることになっています。あて面とロボット、剛体同士の衝突では、実情よりも大きな測定値となってしまうのが理由のようです。
 大きな測定値が出る=マージン多め・安全側に寄っている、ということなので、ISOやJISでの測定方法でも問題ないと思います。

ばね

人体のばね定数を再現するためにばねを取り付けます。
想定する部位に応じて、ばねを交換する必要があります。

おもり

人体の有効質量を再現するためにおもりを取り付けます。
センサーやバネなどを含めたスライドの上の部分が、想定する人体部位の有効質量に一致するように、調整する必要があります。
ぶつかり(過渡的接触)の測定でのみ必要で、準静的的接触(挟まれ)では人体のニゲを考えないので不要です。

スライド機構

おもりと同様、ぶつかり(過渡的接触)の測定での、人体のニゲを再現します。
準静的的接触(挟まれ)の場合は、取り外すか固定してしまいます。

その他

模式図はかなり省略して描いていますが、実際はばねを支持するためのスライド(あて面と力センサの間)や、その他部材が必要です。

測定方法

測定装置の軸線*1とロボット手先(TCP)の進行方向が一致するように、さらに、ロボットの(設定上の)最高速度が出ている時に衝突するようにして測定します。
測定ごとのばらつきなどもあるため、複数回測定した方がいいでしょう。

ロボット手先が直線補間で動く場合は、下の図のようになります。

直線補間せずに円運動する場合は、下の図のように、衝突時の動作の接線方向と測定装置の軸線が一致するようにします。

前後方向や上下方向の動作での測定も必要です。
一番動作が速い方向だけ測定すればいいのでは?と思うかもしれませんが、速度の大小だけではなく、姿勢や動作中にどの関節が大きく動いているか*2によって、停止の感度が違う可能性もありますので、あまりに測定を省くのは危険だと思います。

実際に測定したい場合は?

上記の論文などを参考に測定装置を自作してもよいでしょうし、製品としても存在します。
Cobosafe CBSF 協働ロボット衝撃力測定器 衝撃力試験|エクセル株式会社
人とロボットの協働のための衝突測定セットPRMS - Pilz JP

また、出張での測定サービスを実施しているところもありました。
協働ロボットの衝撃力測定サービス - 電気・人体安全 - パナソニック プロダクト解析センター - パナソニック ホールディングス

設計段階で気を付けること

この測定はあくまでシステム構築の最終段階です。
設計段階において潰せる危険源は潰しておくべきなのは言うまでもありません。
幾つか注意点を挙げておきます。

不要なエッジをなくす

協働ロボットシステムに限らずですが、不必要にエッジがあると、接触した際の圧力が高くなり危険です。
必要に応じて、クッション性のあるロボットジャケットをつけることを考えてみてもよいと思います。
逆に、あらゆる接触で必ず一定以上の面積があると言えれば、力の測定のみを実施して、圧力については力の測定結果からの計算で安全が担保できるかもしれません。

平面的・高さ方向ともに、ロボットの動作領域は最小限にする

前回の記事でも書きましたが、人と接触するケースはなるべく少ない方がいいです。
安全上もそうですし、リスクアセスメントで考慮する場合分けが少なくなります。*3
ほとんどのロボットは、ソフトウエアの安全機能で動作領域を制限できるので、そういった機能を活用することが大切です。

また、頭部への接触は発生してはいけません。
理想を言えば、人の胸の高さより上にはロボットの手先を持ち上げないようにしたいところです。
アプリケーション上どうしても無理ならば、柵など追加の保護をつける必要があります。

まとめ

いかがだったでしょうか。
結構やることが多いと感じるかもしれませんが、協働ロボット導入時には必要なプロセスですので、ぜひこれらのことを念頭においておいてほしいと思います。

*1:力センサ・圧力センサの測定方向、かつ、スライドの動作方向

*2:大まかにいうと、図のような左右方向なら第1軸、前後方向なら第2軸、上下方向なら第3軸が主に動作を生成します

*3:場合分けが少なければ、1つ1つのケースをじっくり検討でき、結果として安全性が向上しますね