FA・ロボット業界の片隅から

FA業界の片隅のフリーランス機械設計者のブログ。 産業用ロボットウォッチが趣味です。

「協働ロボット」は一言でくくれない(2025年版)

本記事は、下記の過去記事を書きなおしたものです。
2025年2月のISO10218シリーズ改訂によって大幅な書き直しが必要となったため、過去記事は記録として残し、新たな記事として投稿しました。
fa-robot-watch.com

はじめに

産業用ロボットはISO・JISでも定義されており、また、製品として歴史もあるため、ある程度の共通認識があります。
では協働ロボットはどうかと言うと、製品の歴史が浅く、ユーザが"協働ロボット"でイメージすることにも大きなばらつきがあります。
さらに今回のISO10218シリーズの改定で、collaborative robotという用語が使われなくなったため、さらに混乱が生じそうです。

本記事では現状をなんとか整理してみたいと思います。

ISO10218-1/-2: 2025では

先ほども書きましたが、今回の改定でcollaborative robotという用語が使われなくなりました。

It is important to emphasize that the terms “collaborative operation” and “collaborative robot” are not used in this document. Only the application can be developed, verified and validated as a collaborative application.
(ISO10218-1:2025 Introductionより引用)

とある通り、collaborative applicationとしてのみ、開発・検証・妥当性確認できるとしています。
もう少し関連する用語の定義をISO10218-1:2025から参照してみます。

(日本語訳はJIS B8433-1,2を参考にするか、意訳しました。今後正式な邦訳(JIS化)の際に、違う訳出になるかもしれませんのでご了承ください)

3.1.1.4 (industrial) robot application

ワーク・プログラムなど、ロボットの使用目的を達成するために必要な装置を含む機械。
ISO10218-1:2011での「ロボットシステム」に近い意味合いになっています。

※用語の詳細については、過去記事も参照ください。
【用語解説】ロボットシステム・ロボットアプリケーション・ロボットセルについて - FA・ロボット業界の片隅から

3.1.1.5 application

robotやrobot applicationの意図した使用、目的。
例として、組立・塗装・スポット溶接・検査・パレタイズなど。
robot applicationとapplicationは全く別の語なので注意してください。

3.1.1.6 collaborative application

collaborative taskを含むapplication

3.1.1.7 collaborative task

robot applicationとoperatorの両者が同じsafeguraded space(安全防護空間)にいるようなtask。

小まとめ

ここまでをまとめると、人とrobot applicationが同じ空間にいるようなtaskを含むapplicationの場合、それをcollaborative applicationと呼ぶということになります。
これまでと変わらないのでは?と思うかもしれませんが、
「協働ロボット」というものは存在せず*1「協働な使い方」があると、「協働」の定義づけが大きく変わっています。

ISO10218-1:2025の5.10 Capablities for collaborative applications内に

  • 5.10.2 Hand-guided control (HGC)
  • 5.10.3 Speed and separation monitoring (SSM)
  • 5.10.4 Power and force limiting (PFL)

という機能は列挙されているのですが、
5.10.1 Generalに

To develop a collaborative task in accordance with ISO10218-2:2025, robot capabilities, including safety functions, can be necessary for the intended collaborative task.

と記載があり、shall(備えなければならない)という記載ではなく、can be necessary(必要かもしれない/必要となりうる)という弱い書き方になっています。
(ISO10218-1:2011のときは、いずれか1つ以上を備えなければならない、という書き方でした*2

一方、ISO10218-2:2025では、
5.14 Collaborative applicationsの5.14.1 Generalに

Operator(s) performing a collaborative task within a safeguarded space shall be protected from injury due to contact from moving parts of the robot application.(以下省略)

shall(せねばならない)という語を使って表現していることから、「協働」という使い方における安全の確保は、ISO10218-2:2025にて実施するのだという意図を感じます。

上記を踏まえると「ISO10218-1:2025に準拠した協働ロボット」という表現は不正確で、「ISO10218-2:2025で定義されているcollaborative applicationを実装する上で有用な機能を備えたロボット」というのが正確な言い回しとなります。
今後各ロボットメーカーがこのジャンルの商品群のネーミングをどうするか、気になるところです。

ユーザサイドが考える"協働ロボット"

では、ユーザサイドで「協働ロボット」と言った場合はどうでしょうか。いろいろ盛り込むならば、下記のような特徴があるロボットということになるのではないかと思います。

  1. 速度と間隔の監視 (SSM)が可能(速度制限と人の接近を検知するためのセンサ類接続)
  2. 動力および力の制限(PFL)が可能(衝突検知機能)
  3. ハンドガイド (HGC)が可能
  4. 丸みを帯びたフォルム、片持ちのアーム形状
  5. ティーチングペンダントがタブレットで使いやすいUIを持っている
  6. ダイレクトティーチングが可能
  7. 周辺機器との接続が容易

1~3はISO10218-1:2025の中でcollaborative taskを実現する助けとなる機能として挙げられているものです。
5~7はUniversal Robotなど、このジャンルで先行しているメーカのイメージから来るものですね。

最も厳しく注文をつけるなら、これらの特徴全てを備えたロボットこそが協働ロボットだ!と言えると思います。
では、世の中で"協働ロボット"と呼ばれている製品が、全てこの特徴(機能)をもっているか?と考えてみると、そうでもありません。
UR社やTechMan、JAKA、安川電機のHCシリーズ、FANUCのCRXなどは上記の1~7すべてを備えていると言えます。
ですが、例えば6のタブレット型ペンダントで言うと、URがタブレット型一択なのに対し、安川電機ではオプション扱いだったりなど、若干の温度差があります。
また、FANUCの緑の協働ロボットのシリーズは、5.丸みを帯びたフォルム、片持ちのアーム形状、7.タブレット型ペンダント、8.周辺機器の接続性、はありません。*3

まとめ

以上、ISO10218シリーズでの「協働ロボット」の扱いと、「協働ロボットという商品群」という2面から見てみました。

  • ISO10218シリーズでは「協働ロボット」というものは定義されていない
  • 「協働ロボットという商品群」も、機能・特徴にばらつきがある

が結論となります。
したがって、「協働ロボットがほしいんだよね」と言われたとき、安易に1つ製品を選ぶのではなく、
「どのような作業を、どのように実現したいのか?」という観点から出発し、そのために必要な機能を備えているロボットはどれか?と吟味することが大切だと言えます。

余談

いろいろ長々書きましたが、意味の揺れはありつつも「協働ロボット」という言葉は使い続けられるでしょうし、私も使うと思います。

*1:定義せず

*2:2011版では、4つの要求事項がありましたが

*3:ネット情報を調べる限りでは