安川電機の大型ロボットMH900の構造がよく分かる動画がありましたので、当ブログの過去記事と照らし合わせながら紹介していきたいと思います。*1
ロボットの内部構造や生産工程はなかなかパブリックな情報として出てこないので、こういった動画は非常に勉強になります。
MH900について
可搬重量900kg、リーチ(水平方向到達距離)は4683mm、揚程(上下ストローク)は6209mm、自重は10トンという超大型ロボットです。
Motoman MH900 Robot for Assembly & Handling | 900.0 kg
安川電機の日本語サイトに情報が見当たらないので、海外でのみ展開している機種かもしれません。
動画の概要
YouTuberの方がアメリカ合衆国オハイオ州にある安川電機の工場を訪問・見学するという動画で、動画の4分18秒ころに工場へ到着、6分17秒ころからロボット組立工程の見学が始まります。
動画内のみどころ
動画で気になったところをピックアップしていきます。
(メカに関する内容がメインです)
基本スペックなど(6分20秒〜)
まずは可搬重量やリーチなどについて言及しています。
MH900という機種名は900kgの可搬重量を表すのですが、それを約2000ポンドと言い換えているのがアメリカですね。
6分38秒ころに映っている姿は出荷するための姿勢(ship position)で、高さは8フィート(約2.4m)だが、基準姿勢(Typical Home Position)になると12フィート(約3.7m)あると言っています。
カウンターウエイトについて(6分55秒)
「ロボットの背後にカウンタバランス、鉄の塊がついている」と述べています。
ロボットの駆動を補助するための部品で、日本語だとカウンターウエイトと呼ばれることが多いです。
当ブログ過去記事はこちら:ロボットの機構(2)~カウンターウエイト~ - FA・ロボット業界の片隅から
架台や試験用ウエイトについて(7分10秒〜)
安川技術者の方が、「当初2feet(約0.6m)の架台を使用していたが、最終的に7feet(約2.1m)の架台を製作したところ、天井クレーンにぶつかる恐れが出てきた」と言うようなことを言っています。
このクラスのロボットは据え付け面から下側の動作範囲も大きいので、試験環境を作るだけでも一苦労です。
また興味深いのは、試験用のウエイトが1種類ではなく、手首への負荷イナーシャが大きくなるような別バージョンのウエイトも準備してある点です。
7分23秒ではノーマルバージョンの試験用ウエイトが映っていますが、7分28秒では、イナーシャが大きくなるような幅広の試験用ウエイトが映っています。
自動車のボディのようながらんどうの部品は、重さの割りにイナーシャが大きくなりますので、そのような用途を想定していると思われます。
スプリングバランサーについて(8分25秒〜)
スプリングバランサーについて、YouTuberの方は「油圧シリンダなのか?」と予想していますが、安川技術者の方に「いや機械バネだよ」と訂正されています。
Lアーム*2の動作を補助すると解説しています。
当ブログの記事はこちら:ロボットの機構(3)~ばね要素~ - FA・ロボット業界の片隅から
MH900は記事内の配置パターン1(根本配置)になります。
組立途中のロボット(9分40秒〜)
途中まで組み立てられたロボットの方に移動しています。
上下するプラットフォーム上で組み立てるとのことで、J1モータの取り付け部、先ほどのスプリングバランサの支点取付部などを解説しています。
黄色い部品は組立ジグでしょう。
疑問なのは、塗装済みの部品とそうでない部品が混在していることです。全部の部品塗装した後に組み立てるか、完成後に丸ごと塗装するかのどちらかだと思うのですが・・・製品ではなく社内試験用の機体なのかもしれません。
リンク機構について(11分00秒)
付近CADでのアニメーションも示しながら、平行リンクについて説明しています。
当ブログの記事はこちら:ロボットの機構(1)~平行リンク機構~ - FA・ロボット業界の片隅から
ケーブルについて(11分20秒付近)
ケーブルの接続や、引き回しについて説明しています。Lアームの中を通っているとのこと。
11分22秒で矢印で示されていますが、ケーブルベアが中に入っているのですね。
リードタイムについて(11分55秒〜)
YouTuberの方が生産にかかる時間を質問しています。
「受注生産で、いろいろスムーズに進んで組立完了までに1カ月、その後の検査などでプラス1週間くらいかな」とのこと。
このサイズのロボットが注文から1カ月そこそこで出荷できるというのは結構早いと感じますが、いかがでしょうか?
13分11秒から、部品の調達について言及していて、地元の鋳造メーカから加工業者の方に送られ納品されてくると述べています。
上腕(Upper arm)のサブ組立に移動(13分33秒)
YouTuberの方が「ドライブ」と言う用語が何を意味するか尋ねていて、おおよそモータ+減速機+周辺部材の意味であると答えています。
当ブログの関連記事はこちら:ロボットアームで使われる機械要素部品について - FA・ロボット業界の片隅から
リーク(グリース漏れ)に関する苦労話(14分40秒〜)
グリースを入れる前に、リークが無いか確認する工程があり、
意訳すると、グリースバス(グリスが封入されている空間)に一定のエア圧をかけて、圧力低下がないかどうか確認するテストです。圧力低下がある場合、どこかに漏れ箇所があることになります。
漏れ箇所を見つけるのが非常に大変で、オイルシール・Oリング・液状ガスケットなどを組み合わせて使っている上に、鋳物部品の巣でリークがあることもあり、一度は「サブアッセンブリー全体を水に沈めるまで漏れ箇所を見つけられなかった」ということを熱く語っています。
手首軸の動力伝達について(16分35秒〜)
MH900の手首の3軸は、根本側(肘側)にモータが3つ配置されていて、ドライブシャフトで動力を伝達する構造になっています。
16分35秒付近で見えているのは第4軸の減速機、
16分40秒に安川技術者の方が手を添えているスプライン部が第5軸のドライブシャフト(チューブ)で、長く伸びている中実シャフトが第6軸のシャフトです。
16分50秒から、手首先端部の組立のためのジグが映っています。
この部分だけで400~500kg(!)あるので、ポジショナーで回転しながら組立を行うとのことです。
第5軸と第6軸の機構と制御での対応(17分50秒~)
ここで触れられているのは、第5軸だけを回転させるつもりで第5軸モータだけを回転させると、内部機構(ギヤ)の関係で、第6軸の出力軸も回転してしまうという問題です。
これを打ち消すために、第5軸の影響を打ち消すように、第6軸のモータも動かす必要があり、制御で対応しているということが説明されています。
鋳物について(27分10秒~)
26分50秒頃から、設計・試作から量産へ進む際の話をしているのですが、特に27分10秒からの鋳物の話が面白いです。
鋳物は5~10mmのずれが発生するので、例えば必要な箇所にはair cut(部品の上限サイズを保証するための、空振りしてもいい加工)を指示する必要があるといったことを述べています。
この動画の情報だけだと断定はできないのですが、開発・設計もアメリカ法人で行ったような雰囲気を感じます。安川電機の日本語ウェブサイトに情報が無いのは、そういった事情もあるかもしれません。*3
まとめ
以上、動画の紹介でした。
英語ですが、自動翻訳+本記事も参考にしつつ、ロボットの構造や生産の様子などを学んでいただけたら幸いです。
