FA・ロボット業界の片隅から

FA業界の片隅のフリーランス機械設計者のブログ。 産業用ロボットウォッチが趣味です。

【用語解説】ロボットシステム・ロボットアプリケーション・ロボットセルについて

ISO10218シリーズ2025で、「ロボットシステム」や関連する用語の定義が変わったため、整理しておきたいと思います。
なお、分かりやすさ優先で、意訳した部分・ざっくり書いた部分がありますので、正確なところは原文を参照してください。
ISO10218-1:2025をベースに書いており、原文は下記リンクから参照できます。
(用語の箇所(3.1 Terms and definitions)は無料で閲覧可能です)
https://www.iso.org/obp/ui/en/#iso:std:iso:10218:-1:ed-3:v1:en

ロボット・ロボットシステム・ロボットアプリケーション・ロボットセルについての用語

3.1.1.2(industrial) robot

robotの定義は以前とそれほど変わっていません。*1
robotには下記の3つが含まれます。*2

  • the manipulator
  • the robot control
  • the means to teach or program the robot

なお、読みやすさのために、規格内ではindustrialを省略する場合があるため、本記事ではかっこ書きにしています(以下同じ)

3.1.1.3 (industrial) robot system

上記のrobotに、エンドエフェクタ、エンドエフェクタを補助する機器を加えたものです。
ISO10218-1:2011では、「産業用ロボット+エンドエフェクタ+ロボットがタスクを行うために必要なあらゆる機械類・設備・装置・外部の負荷軸又はセンサ*3という定義だったので、狭い意味合いになっています。

3.1.1.4 (industrial) robot application

上記のrobot systemに加えて、ワーク・プログラムなど、ロボットの使用目的を達成するために必要な装置を含む機械
新しくこの用語が登場し、ISO10218-1:2011でのロボットシステムに近い意味合いになっています。

3.1.1.5 application

robotやrobot applicationの意図した使用、目的。
例として、組立・塗装・スポット溶接・検査・パレタイズなど。

3.1.1.4 でのrobot applicationと、3.1.1.5のapplicationは明確に違う用語なので、注意が必要です。
3.1.1.6 collaborative application、3.1.1.7 collaborative taskは今回省略し、別途詳しく説明します。

3.1.1.8 (industtiral) robot cell

3.1.1.4のrobot applicationを1つ以上含み、さらに、リスクアセスメント・安全防護策に影響のある物体・障害物を含むもの
これは、ISO10218-2:2011(JIS B8433-2:2015)の3.9で定義されている「産業用ロボットセル」とほぼ同じ意味です。

まとめると

以前のISO10218シリーズ2011版では、下記の図のように、ロボット⇒ロボットシステム⇒ロボットセルという関係になっていましたが、

ISO10218-1/-2:2011におけるロボット・ロボットシステム・ロボットセル

今回の改定で、下記の図のように、robot systemと呼んでいたものがrobot applicationになり、robot systemは限定された意味合いになりました。

ISO10218-1/-2:2015におけるロボット・ロボットシステム・ロボットアプリケーション・ロボットセル

それに伴い、ISO10218シリーズの第2部の名称も

Part 2: Robot systems and integration

から、

Part 2: Industrial robot application and robot cells

に変更されています。

このように、前の版(2011年版)と用語の定義が異なっているため、読み進める際に注意が必要です。

余談

システムインテグレータ(SIer)という呼称をどうするのか?と思われるかもしれません。呼び慣れているので、いまさら変えるのも・・という感じです。
私の意見としては、ISO11161で規定されている「統合生産システム(Integrated manufacturing system; IMS)」というものがあるので*4、少しこじつけっぽいですが、「統合生産システムを提供する事業者」ということでシステムインテグレータという呼称を使い続けてもいいのではないかなと思います。
ただ、「ロボットシステム」と言ってしまうと意味が違ってきてしまうので、ロボットシステムインテグレータという呼び方を使い続けるのはちょっと苦しいかと思います。*5

*1:おなじみの「自動制御され、再プログラム可能で3軸以上の軸をもつ多用途マニピュレータ」といった内容が記載されています。

*2:マニピュレータ、制御装置、ティーチングペンダントの3つというよりは、もう少し抽象化された「3つの機能」に近い意味かと思います。イラストでは分かりやすさ優先で描いてしまいましたが

*3:JIS B8433-1:2015の3.11より

*4:ISO11161は、複数の機械類を組み合わせて使用する場合についての安全について規定したTYPE B規格です。

*5:ISO10218-2:2025の3.1.7.2 でintegratorが定義されていますが、robot applicationsまたはrobot cellsを設計・供給・製造・組立する者、となっています