FA・ロボット業界の片隅から

FA業界の片隅のフリーランス機械設計者のブログ。 産業用ロボットウォッチが趣味です。

【用語解説】最大空間・制限空間・運転空間・安全防護空間について

産業用ロボットの運用を考えるうえでの「空間」(space)について説明をしていきます。

基本的にはISO10218-1:2025を元に記載していますが、日本語訳についてはJIS B8433-1,-2:2015*1を参考にしています。
規格での記載順ではなく、説明しやすい順で紹介していきます。

space(空間)

JISだと「3次元の容積」と記載されていますが、「3次元の広がりを持った領域」というように書けば分かりやすいでしょうか。

maximum space(最大空間)

ロボットの動作部分が到達しうる最大の空間です。
ロボットに取り付けられたエンドエフェクタや保持しているワークなども考慮する必要があります。

ロボットのスペックシートなどに記載されている動作範囲は、動作基準点を用いて記載されていることが多く、また、エンドエフェクタやワークも考慮されていないため、この最大空間とは異なりますので、注意が必要です。

ロボットの動作範囲については過去記事も参考にしてください。
fa-robot-watch.com

restricted space(制限空間)

limiting device(制限装置)を使って調整した後の、ロボットの動作部分が到達しうる空間です。
制限空間は、最大空間と同じか、最大空間に含まれる空間です。
規格には明記されていませんが、安全上は、ロボットがタスクを実行できる最小のスペースに調整することが望ましいと言えます。

limiting device(制限装置)については、別の記事で解説していますので、そちらをご覧ください。
fa-robot-watch.com
※制限空間の制限はrestrictで、制限装置の制限はlimitで、ややこしいですね

operating space(運転空間)

operating space(運転空間)は、ロボットが運転中に実際に到達する空間です。
運転空間は、制限空間と同じか、制限空間に含まれる空間です。
運転空間は、主にティーチングによって決まると言えます。

safeguarded space(安全防護空間)

安全柵+インターロック、安全センサといったsafeguards(安全防護)が有効な空間、つまり、

  • 柵で囲われており、ロボット停止しないとその空間に入れない
  • 人がその空間に入ったらロボットは低速になる・停止する

といった安全対策がなされている空間です。*2

最大空間・制限空間・運転空間は、ロボットのスペックや設定、ティーチングによって決まる空間でしたが、安全防護空間はどちらかというと安全柵や安全センサのようなロボット以外の安全デバイスによって形作られる空間です。*3
安全防護空間は、制限空間を包含するように設計する必要があります

まとめると

まとめると、下記の図のようになります。

ロボットにまつわる空間
  • 実線:maximum space(最大空間)
  • 点線:restricted space(制限空間)
  • 2点鎖線:operating space(運転空間)
  • カギ波線:safeguarded space(安全防護空間)

包含関係をまとめると、以下のようになります。

  • 最大空間 ⊇ 制限空間 ⊇ 運転空間
  • 安全防護空間 ⊇ 制限空間

制限空間と運転空間の違い

ここまで読んで、「制限空間と運転空間の違いは何だろう?」と思った方もいるかもしれません。

ロボットスペック上の最大の動作範囲(最大空間)と、実際に使う範囲(運転空間)が違うことは、すんなり納得できると思います。
そこで、「運転空間が決まったら、それを囲うように安全防護空間を設計したらいいのでは?」と思うかもしれませんが、それでは安全が担保されないのです。

運転空間はティーチングその他、非安全な制御によって決定されている空間なので、その空間の外にロボットが逸脱しない保証がありません

例えば、ロボットと3Dカメラを組み合わせてピッキングをさせるような場合を考えます。
正常な状態であれば、箱の中のワークを3Dカメラで認識して把持し、背後のコンベヤ上に置いていくので、下記のような運転空間が想定されます。
その運転空間を囲うように安全防護空間を設定し、その外側は安全な空間として、通路などにしたとします。

制限空間を使用しないNG事例

ですが、3Dカメラへのノイズや箱の外にワークがこぼれたなど、イレギュラーが発生したらどうなるでしょうか。
ロボットは想定の範囲を逸脱して動作し、人とロボットが接触するかもしれません。

制限空間を使用しないNG事例

上記のような事態を防ぐために、制限装置という安全機能を使って制限空間を形成し、ロボットはその空間からはみ出さないということを保証するわけです。

規格内での記載箇所

ISO10218では

-1:2025 -2:2025
space - 3.1.9.1
maximum space 3.1.9.1 3.1.9.2
restricted space 3.1.9.3 3.1.9.4
operating space 3.1.9.2 3.1.9.3
safeguarded space 3.1.9.5 3.1.9.6

JIS B 8433では

-1:2015 -2:2015
空間 3.24 3.13
最大空間 3.24.1 -
制限空間 3.24.2 3.13.2
運転空間 - 3.13.1
安全防護空間 3.24.3 3.13.3

*1:1つ前の版であるISO10218-1,-2:2011のJIS版

*2:規格には、「空間内部で安全防護が有効もしくは安全防護で空間の境界が保護されている」、という書き方になっていますが、ややこしいので省略します

*3:もちろん、完全に分けられるというものではありませんが