FA・ロボット業界の片隅から

FA業界の片隅のフリーランス機械設計者のブログ。 産業用ロボットウォッチが趣味です。

モータと減速機の接続方法

産業用ロボットの関節(軸)では、多くの場合モータの回転を減速機で減速しているのは皆さんご存じかと思います。
減速機と言えば、波動減速機*1やトロコイド歯車減速機*2などの精密減速機が有名です。
が、精密減速機とモータだけで駆動系が成り立つかというとそうではなく、一般的な*3ギヤやベルト・プーリ、ドライブシャフトといった伝達部品も、もちろん使用されています。
今回は、モータと減速機の間をどう接続しているかについて説明します。

特定のメーカーの構造ではなく、産業用ロボットで一般的な構造を紹介しています。

はじめに

そもそもギヤトレーンには下記の3つの役割があります。

  • 回転数の調整
  • トルクの調整
  • 回転軸の位置や方向の調整

ロボットの場合、最初の2つは精密減速機で担うことが多く、3つ目の回転軸の位置や方向の調整をギヤやベルト・プーリなどで実現することが多いです。
つまり、
モータ⇒ギヤやベルト・プーリ、ドライブシャフトなどで目的の位置と方向に回転を持っていく⇒精密減速機で目的のトルクと回転速度を達成
という構成です。*4

「モータ⇒減速機⇒ギヤやベルト・プーリ」という順番での接続は基本的には採用されません。スパーギヤ等は精密減速機と比較して停止精度が悪く、ロボットの位置決め精度の観点から不利となるからです。
位置決め精度については、過去記事もご覧ください。
fa-robot-watch.com

では、モータと減速機の接続でよく見る構造について紹介していきます。

直結

減速機の入力軸とモータの軸が直結されている構造です。

直結構造のイメージ

直結ならではの部品点数が少ない、高効率、低騒音といったメリットがありますが、レイアウトの自由度がないというデメリットがあります。
また、中空減速機で配線を通そうとしても、モータが邪魔をしてしまいます。
(最初から減速機に配線を通すことはあきらめることも。イメージ図は中空ではない減速機です)
どうしても中空部で配線を通したい場合は、中空モータと組み合わせる必要があります。

いわゆる協働ロボットは、片持ち構造が多いこともあり、ほとんどがこの接続方法ですね。ただし、モータのステータとロータを直接ロボットのボディに組み込むことで減速機の中空に配線を通すような構造が多く、イメージ図とは若干異なります。

平歯車でオフセットして接続

減速機の入力軸とモータの軸が平歯車で接続されている形態です。
平歯車を使用することで、減速機の回転軸とモータの回転軸をオフセットできます。

平歯車接続のイメージ

減速機の中空構造を活かせるメリットがありますが、直結と同様にレイアウトの自由度はなく、またギヤを使っているので駆動音が大きくなりがちというデメリットがあります。

大型ロボットの第1・第2・第3軸をはじめ、多く採用される接続方法です。
なお、ナブテスコのRV減速機は標準で平歯車を使用する構造になっているため、設計時の意識としては直結ともいえます。

ベベルギヤ(傘歯車)

ベベルギヤは、後述するドライブシャフトやタイミングベルトなどと組み合わされることが多く、回転軸の方向を変えるために使用されます。
回転軸の方向を変える、ほぼ唯一の選択肢*5ですが、部品点数が多くなる・騒音が大きくなりがちといったデメリットがあります。

ハイポイドギヤ

ベベルギヤの亜種としてハイポイドギヤというものもあり、FANUCの一部機種では、手首軸にハイポイドギヤが使用されています。
ハイポイドギヤは2つのギヤの軸をねじれの位置に配置することが可能で、通常のベベルギヤと比較してレイアウトの自由度が高いです。
FANUC以外で使っているメーカは聞いたことがありません。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-S62-287991/11/en

プーリ・タイミングベルト(+ベベルギヤ)

タイミングベルトを使うと、モータと減速機の回転軸を長いスパンでオフセットさせることができます。

プーリ・タイミングベルト接続のイメージ

テンション調整が必要で組み立て工数増、また、切れるリスクがゼロとは言い切れないといったデメリットがありますが、
小型ロボットの第2軸、第3軸などをはじめ、よく見る接続形態です。
手首先端の第6軸などでは、タイミングベルトとベベルギヤを組み合わせた構造のこともあります。(下記図)

プーリ・タイミングベルト接続とベベルギヤ接続の組合せのイメージ

下の図は、小型ロボットの手首を構成する第5軸・第6軸の構造のイメージ図です。
第6軸は先述のベベルギヤとの組み合わせ、第5軸はプーリ・タイミングベルトのみの構造です。

手首の第5軸・第6軸の構造イメージ図

ドライブシャフト(+ベベルギヤ)

ドライブシャフトを使用すると、モータの回転軸を延長する形で、モータと減速機を離れた位置に配置することができます。
また、ユニバーサルジョイントを組み合わせると、回転軸を多少オフセットさせることもできます。
大型のロボットの手首の駆動部によく使われています。

下記のイメージ図では、平歯車で第4・5・6軸モータの回転を一度同軸にまとめてドライブシャフトで伝達し、手首部付近で各軸の減速機に伝達しています。

大型ロボットの手首構造イメージ(ドライブシャフト・平歯車・ベベルギヤの組合せ)

ドライブシャフトを使用すると、駆動する関節周辺を小型・軽量にできる(特に手首軸に使用した場合)といったメリットがありますが、どうしても部品点数が多くなってしまうというデメリットがあります。

まとめ

ロボットのモータから軸(関節)にある減速機までどのように動力を伝達するか?をまとめてみました。
垂直多関節ロボットの場合、関節の位置はおおよそ決まっていますので、「モータをどこに置きたいかを決めてから、その間の伝達方法を考える」という順番の方がしっくりくるかもしれません。
大型ロボットはモータや減速機が外から見えていることも多いので、展示会などで観察しながらギヤトレーン構成を想像してみるのも楽しいかと思います。

関連記事・動画

安川電機の900kg可搬ロボットの動画を解説している過去記事です。ドライブシャフトを使った手首関節の構造は、この動画を参考にイメージ図を作成しました。
fa-robot-watch.com

他、参考になる動画を張り付けておきます。

*1:ハーモニック・ドライブ・システムズの

*2:ナブテスコのRV減速機や住友重機械のサイクロ減速機

*3:何が一般的かと言い始めるとややこしくなりそうですが

*4:ギヤやベルト・プーリで若干減速することもありますが

*5:タイミングベルトを曲げて使う構造も見たことはありますが・・・