今回は産業用ロボットの騒音についてです。

はじめに
職場の環境として、騒音は1つの大きな要素ですので、当然ロボットの騒音も気になるところです。
が、ロボットのスペックを調べてみても記載があったりなかったり、また、定まった測定方法があるのか調べてみても、意外と情報がありません。
というのも、ロボットの安全に関する規格であるISO10218シリーズ内では、騒音について規定されていません。
"Noise emission is generally not considered a significant hazard of the robot alone, and consequently noise is excluded from the scope of this document."
という記載があり、ざっと訳すと
「騒音は一般的にロボット単体での重要危険源とは見なされず、したがって、騒音は本規格の範囲から除外される」
といった意味合いです。
「産業用ロボット 騒音 測定方法」といったキーワードで検索をしても、ズバリ解説をしているページがなかなか見つからないのはこのためです。
本記事では、ISO11201-1:1995(JIS Z 8737-1:2000)を参照しつつ、ロボットメーカが公開している騒音に関する情報も調べながら、まとめてみたいと思います。
規格の内容確認
では、JIS Z 8737-1:2000(ISO11201-1:1995)*1の中身をちょっと見ていきましょう。
特に、
- ロボットからどれくらいの距離で測定するか
- どのような動作パターンで測定するか
に関連した箇所を重点的に見ていきます。
興味が湧いたら、ぜひ規格本文を読んでみてください。
ロボットからどれくらいの距離で測定するか
「1.4 指定位置(測定位置)」に「測定が行われる位置の例」が記載されています。
一部抜粋してみると、
a) 測定対象機器近傍の作業位置。これは,多くの産業機械や家庭用機器などの場合に相当する。
~(中略)~
e) 測定対象機器の操作をするわけではないが,一時的又は常時その機器のすぐ近くにいることがある人員のための位置(バイスタンダ位置)
とあります。
産業用ロボットの場合で考えてみると、ロボットの近く(もちろん、安全な位置で)にいる作業者に到達する騒音を評価する必要がありそうです。
細かいことを言うと、
- a)・・ロボットのセルに対して作業や操作を行う作業者
- e)・・ロボットの前工程や後工程、あるいは全く関係のない工程に従事する作業者
と分けて考えられそうですが、あまり厳密に分ける必要はなく、ロボットの最も近くにいる人を考えておけばよいと思います。
どのような動作パターンで測定するか
「9.5 機器の作動」に下記のような記載があります。(強調は私が付けました)
9.5 機器の作動
測定対象機器に該当する個別規格がある場合,測定の間,その作動条件を使う。
個別規格がない場合,可能な限り,通常使用の典型となるような方法で測定対象機器を作動させる。そのような場合,次の中から一つ又は複数の作動条件を選択する。
a) 規定の負荷及び作動条件
b) (上記の負荷条件と異なる場合)最大負荷条件
c) 無負荷(アイドリング)条件
d) 通常使用の代表的なもので,最大音を発する作動条件
e) 明確に定義した模擬負荷での作動条件
f) 測定対象機器特有の作動サイクルでの作動条件
「個別規格がない場合,可能な限り,通常使用の典型となるような方法で測定対象機器を作動させる」と記載がありますが、ロボットの場合、最終的な用途に応じて動作パターンは多種多様ですので、ロボットメーカでの評価をどうするかは悩みどころです。
各ロボットメーカの記載例
では、各ロボットメーカの騒音測定について、公開されている情報を見てみましょう。
川崎重工の例
川崎重工の小型ロボット、RS007の据付・接続要領書の中から、RS007N-Aの情報を見てみます。*2
https://kawasakirobotics.com/uploads/sites/2/2022/01/manual_robots_small-medium-payload-robots_ra007n_rs007l_ja_01_2021.pdf
RS007N-Aの騒音は「80dB(A)未満」で、
測定条件として
・ロボットは平らな床面にしっかり固定されている。
・JT1軸中心から2000mm地点
と注記があります。
RS007N-Aの動作範囲は730mm*3と記載がありますので、測定位置2000mmというのは、手首部+エンドエフェクタやある程度のマージンを考慮して安全柵が設置されていて、その外に人がいるという想定での測定と思われます。
不二越の例
機種によっては記載がないものもあるのですが、
下記の「MZ35F/50F/70F仕様」のページを例にとります。
不二越 / MZ中可搬ロボット MZ35F/50F/70F
騒音レベルは「80dB」で、
JIS Z8737-1(ISO11201)に従って測定したA荷重*4等価騒音レベルです。(定格負荷、最高速度での運転)
と注記があります。
測定の位置は記載がないのですが、定格負荷=最大負荷、最高速度で運転して測定していることがわかります。
FANUCの例
FANUCのCRXシリーズのリーフレットを見てみます。
https://www.fanuc.co.jp/ja/product/catalog/pdf/robot/RCRALL(J)-06.pdf
騒音は「70dB以下」であり
この値は、ISO11201(EN31201)に従って計測したA加重等価騒音レベルです。計測は、下記条件で行っています。
ー最大負荷、最高速度、自動運転(AUTOモード)
と注記があります。
こちらも、測定の位置は記載がないのですが、最大負荷、最高速度での動作中に測定していることがわかります。
Universal Robotの例
https://www.universal-robots.com/media/1807722/32528_ur_technical_details_ur10e_jp.pdf
騒音について「65dB(A)以下」と記載がありますが、測定条件などは不明です。
測定方法のまとめ
規格およびメーカ情報から推測すると、ロボットの騒音の測定方法としては、下記のような条件で行われていると言えそうです。
- 最大の手先負荷
- 最大速度で運転
- ロボットの到達範囲の外側(安全柵の外)で測定*5
そのことを「A特性に基づく等価騒音」などと呼ぶのですが、ここでは詳細は触れません。
ティーチング中の騒音は?
さて、ここまで読んでみて、「ティーチング中はロボットのすぐ近くにいるけど、大丈夫なのか?」と思われる方もいると思います。
が、ティーチングに関しては
- ティーチング中は速度のリミットが低く設定されており*6、騒音レベルはかなり低い。
- JIS Z 8737-1の「9.5 機器の作動」に「可能な限り,通常使用の典型となるような方法で」と記載があるが、ティーチングは通常使用ではない。
といった理由から、騒音の評価から除外していると思われます。
(ティーチング中も大きな騒音を発生するロボットがあれば、個別で評価するとは思いますが)
ロボット運転中にもっと近くにいることもあるのでは?
ロボットの動作範囲を狭めた場合*7、スペック上の最大動作範囲よりも動作範囲は小さくなり、安全柵もよりロボット近くに設置されることになり、人とロボットの距離も近くなります。
また、いわゆる協働ロボットを使った場合も、人とロボットの距離は近くなります。
そのような場合、人の耳に到達する騒音は、最大動作範囲の外で測定した騒音よりも大きくなる可能性がありますが、動作パターンも絡んでくるため、一概には言えません。
まとめ
結論としては、ロボットメーカが提供している騒音のデータはあくまで参考値にしかならず、他の設備も含めた、実際のロボットの使用状況下で測定をして最終確認することが必要ということになります。
(冒頭でも述べたように、それゆえに、ISO10218シリーズには騒音について規定がされていないということです。話が一周して戻ってきたようですみません・・)
また、測定位置は測定者の裁量が大きいため、カタログを見比べて、「A社のロボットは80dB、B社のロボットは75dBだからA社のロボットの方がうるさいんだ!」と決めつけてしまうのも早急ということになります。