FA・ロボット業界の片隅から

FA業界の片隅のフリーランス機械設計者のブログ。 産業用ロボットウォッチが趣味です。

【基本】ISO10218シリーズの概要

産業用ロボット関連の記事やカタログなどで、「ISO10218」という規格番号をよく目にすると思いますが、どのような規格なのか?ということを大づかみできるように、まとめておきたいと思います。
この記事をとっかかりとして、「ちょっと規格自体を読んでみようかな」と思って頂けたら嬉しいです。

なお、今年の2月の改訂に関する所感は過去記事をご覧ください。
fa-robot-watch.com

基本的には最新のISO10218-1:2025およびISO10218-2:2025をベースに書いていますが、用語の日本語訳などは、1つ前のバージョンであるISO10218-1,-2:2011に基づいた、JIS B 8433-1,-2:2015を参考にしています。

安全のための規格である

まず、産業用ロボットの何を定めた規格なのかという話です。
ISO10218シリーズ2025のタイトルは「Robotics - Safety requirement」で、訳すと「ロボットの安全要求事項」といった意味合いとなります。
つまり、ISO10218シリーズは「産業用ロボット」を安全に使用するための規格です。

Part 1とPart 2に分かれている

  • Part 1・・・ロボット製造業者向けの内容
  • Part 2・・・インテグレータ(システム製造者)やユーザ向けの内容

と、ロボット製造側と使用側、それぞれの立場に対して別でまとめられています。*1
まずは、自分の立場に近い方(あるいは興味がある方)のPartを読んでみるといいでしょう。
ただ、ロボット製造業者がPart 2を知ることで、どのようにインテグレートされるかを知ることができますし、インテグレータやユーザがPart 1を知ることで、どのような思想でロボットが設計されているかを知ることができるので、Part 1, Part2両方を通読しておいて損はないかなと思います。

Part 1とPart 2をまとめて言うときは、ISO10218-1,-2:2025やISO10218-1/-2:2025と書いたり、ISO10218シリーズと書いたりします。

適用範囲

ISO10218シリーズがカバーしている範囲は、産業分野で使用されて、3軸以上の駆動軸があり、アームがあるプログラム可能なロボットになります。
産業分野で使用されているロボットでも、AGVなどはこの規格の範囲外となります。*2
医療用や軍事用、最近増えているサービスロボット、あるいは一般販売されるような製品(学習用模型など)なども対象外です。

内容

産業用ロボットを安全に使うために、

  • どのように空間を設定するか
  • どのような人物が使うか
  • どのように動作を開始するか
  • どのように停止するか、停止状態を維持するか
  • どのような構造であるべきか
  • どのように検証するか
  • どのように正しく使ってもらうか(使い方を伝えるか)

といったことがまとめられています。

・・・書いては見ましたが、私の主観が入りまくっている上に、ほとんど内容が伝わらないと思いますので、ぜひとも序文や目次、用語・定義の部分だけでも読んでみてください

法的な強制力はあるのか

日本国内での話をすると、この規格に適合していないロボットを製造・販売することや使用することが直ちに法律違反となるわけではありません。*3
ただし、労働安全衛生法というものがあり、事業者は機械等による危険を防止するために必要な措置を講じる義務があります。
加えて、厚生労働省からの通達によって、ISO10218-1,-2:2011に基づいたリスクアセスメントは有効な安全対策であるという見解が示されています。
(詳しくは過去記事を参照:産業用ロボットの80W規制とは何か - FA・ロボット業界の片隅から
したがって、不幸にして労働災害が起こってしまった場合、ISO10218シリーズに準拠したロボットを選択していたか、準拠したロボットの運用をしていたかというのは、事業者が安全確保のための責任を果たしていたかの大きな判断材料になると言えます。*4

海外、特に欧州や北米では、ISO10218シリーズが法律から引用されているため、強制力を持つ場合があります。
(準拠した製品でなければ販売できない、さらには、第三者認証を取得した製品でなければ販売ができない場合などがありますが、詳細はここでは割愛します)

どこで読むか(入手方法)

日本産業標準調査会(https://www.jisc.go.jp/)にユーザ登録をすると、JIS検索というコーナーで無料でJISを閲覧することが可能です。
1つ前のバージョンのISO10218-1, -2:2011は、JIS B8433-1, -2:2015として内容を変えることなく反映されており、今回の改訂でも同様と思われます。
現段階では、JISはJIS B8433-1, -2:2015が最新となっている状態ですので、少し待ちましょう。

原文(英語)は、序文や用語・定義の部分は無料で閲覧が可能です。

本文は有料となりますが、ISOのサイトから直接購入もできますし*5

日本規格協会 https://webdesk.jsa.or.jp/からPDFあるいは冊子で購入ができます。*6

関連規格

ISO10218-1,-2:2025が引用している規格は、「引用規格(Normative references)」にたくさん記載してありますが、私としては、関連規格として下記の2つから手を付けるのがいいのではないかと思います。

  • ISO12100:2010(JIS B 9700:2013)(機械類の安全性-設計のための一般原則)
  • ISO13849-1:2023(JIS B 9705-1:2019*7) 機械類の安全性-制御システムの安全関連部-第 1 部:設計のための一般原則)

ISO12100はロボットに限らず産業分野の安全に関連した親玉規格ですので、内容をご存じの方も多いと思います。

安全関連部の設計に関しては、ISO13849-1の他にもう1つ、IEC62061(SILについて記載したもの)が有名なのですが、ロボット関連ではISO13849-1に基づいた、カテゴリーとPLでの評価が主流になっているようですので、上記2個をおすすめしました。

理解を深めたい時は

セミナーを受講する

費用はかかりますが、業界団体や認証機関、出版社や大手インテグレータが主催するセミナーを受講してみるのがおすすめです。
特に今年は改訂された年なので、変更点も含めた解説のセミナーが多数開催されると予想しています。

ネットの解説記事を読む

ネットで解説している記事も結構見つかりますので、それを読んでみてもいいと思います。
ただ、間違った内容が載っていることや、古い情報が更新されていないことなどもあり、注意が必要です。
ISO10218の何年版にもとづいた情報か等も確認しながら(当ブログも含めて)、うのみにしないことが大切です。
※このブログは、機械設計者である私が書いていますので、情報がかなりメカに偏っていることにも注意してください。

(参考)規格の変遷について

余談ですが、この規格が現在の形になるまでに紆余曲折あったので、変遷をまとめてみます。
ややこしいのが、「最初からISO10218-1,-2があって、順次バージョンアップしてきたわけではない」ということです。
図にしてみたのですが、下記のようになっています。

ISO10218の変遷

最初に、まだPart1とPart2に分かれていない、ISO10218:1992*8*9が発行されました。

その後、ロボット製造業者向け(Part 1)と、ロボット使用者側向け(Part 2)で分けた方がいいということになり、2006年にPart1が先に発行されました。(ISO10218-1:2006*10

しかし、part2の発行は遅れに遅れ、結局2011年にPart 1が改訂されたのと同時に、Part 2のversion 1が発行されました。(ISO10218-1:2011、ISO10218-2:2011*11
(そのため、Part1とPart2はversionがずれています)

しかし、実は、その時点でも完全な形ではありませんでした。当時まだ登場して日の浅かった、協働ロボットに関する内容がまとめ切れていなかったためです。
協働ロボットに関する内容は、増補版のような形で、2016年にTS15066としてに発効されました(ISO/TS15066:2016*12

そして、今年めでたく、TS15066の内容も本編に統合されることとなり、ISO10218-1:2025, ISO10218-2:2025というすっきりした形にまとまりました。
(記憶では2022年に改訂の予定だったはずなのですが、かなり遅れての発効となりました)

参考資料

  • ISO10218-1:2025
  • ISO10218-2:2025
  • JIS B 8433-1:2015(ISO10218-1:2011)
  • JIS B 8433-2:2015(ISO10218-2:2011)
  • (JIS) TS B 0033:2017(ISO/TS 15066:2016)

規格の変遷に関しては、JIS B8433-1, -2:2015の末尾の解説を参考にしました。

勉強する男の子

*1:Part1が設計のための一般原則、Part2が妥当性検証の方法、といった分け方になっている規格もありますね

*2:AGVについてはISO3691-4:2020(JIS D6802:2022)がカバーしています

*3:JIS B 8433シリーズが法律から引用されているわけではないため。こちらで強制法規から引用されているJISを調べることが可能です:日本産業標準調査会:データベース-強制法規情報

*4:私は法律の専門家ではありません。FA分野に携わる者の認識として、です。

*5:私は購入したことはありませんが

*6:私はこちらで購入しました

*7:JISは1つ前の版のISO13849-1:2015に対応したものが最新版の状況です

*8:JIS B 8433:1993

*9:これより以前に、日本独自の産業用ロボットに関するJIS B 8433:1983が制定されていましたが、ここでは触れません

*10:JIS B 8433-1:2007

*11:JIS B 8433-1:2015、JIS B 8433-2:2015

*12:(JIS)TS B 0033:2017