産業用ロボットの安全に関する規格の改訂版となる、ISO10218-1:2025、ISO10218-2:2025が2025年2月に(やっと)リリースされました。
私はとりあえず買いましたが、冒頭の部分は下記リンクから見ることができます。
https://www.iso.org/obp/ui/en/#iso:std:iso:10218:-1:ed-3:v1:en
https://www.iso.org/obp/ui/en/#iso:std:iso:10218:-2:ed-2:v1:en
JISになったらデータベースから参照できるようになるので、それを待ってもいいかもしれません。*1
日本産業標準調査会:データベース検索-JIS検索
まだ内容をざっと見ただけなのですが、いくつか目に留まった点をまとめておきたいと思います。
なお、前の版(ISO10218-1,2:2011)については、日本語訳としてJIS B8433-1,2:2015を参照しています。今回の版についてはまだ邦訳もないので、英語のままで記載するか、意訳で記載しています。

- 前置き
- ロボットが「部分的完成製品」であることが明記された
- 産業用ロボットの使用環境が明確化された
- TS15066:2016の内容はほとんどISO10218-2:2025に統合
- サイバーセキュリティに関する言及
- 協働作業の際の要件から「安全適合の監視停止」が除外
- ロボットの分類(ClassI, Class II)が導入された
- 全体的に親切になった
- まとめ
前置き
産業用ロボットの安全に関する規格は、今までは
- ISO10218-1:2011・・産業用ロボットに関する内容
- ISO10218-2:2011・・産業用ロボットシステムに関する内容
- ISO/TS 15066:2016・・協働ロボットに関しての補足
という構成になっていました。
本来は-1と-2の2部構成なのですが、協働ロボットに関する内容のとりまとめに時間がかかったため、先に本体(?)が発行され、後追いで補足のTS15066が発行されたという経緯があります。
今回の改定でTS15066の内容は本体に取り込まれ、すっきり2部構成となりました。
- ISO10218-1:2025
- ISO10218-2:2025
それでは見ていきましょう。
ロボットが「部分的完成製品」であることが明記された
ISO10218-1:2025のIntroduction内で、ISO10218-1は「robots as partly completed machinery」について言及している文書である、と明記されました。
産業用ロボットは、部分的完成製品*2であることは、ロボットに関わる人にとっては共通認識ですが、今回規格内で明言されることになりました。
裏を返せば、「完成品に仕上げて送り出す(システムアップする)責任」が強調されているようにも感じます。
産業用ロボットの使用環境が明確化された
また、同じくIntroduction内で、ISO10218-1は「一般人の立ち入りが制限され、入場が許可されるのは業務に従事する成人であるような、industrial environmentである*3」と記載されました。
これは、サービスロボットなど、誰でもが出入りできるpubcicな環境で使用されるロボットも広まってきたことの裏返しだと思います。
TS15066:2016の内容はほとんどISO10218-2:2025に統合
協働ロボットに関するTS15066:2016の内容は、ほとんどが(-1ではなく)ISO10218-2:2025に取り込まれています。
ISO10218-1:2025にも記載はありますが、かなりあっさりしており、数字を含めた詳細な内容はほとんどがISO10218-2:2025に記載されています。
先ほど述べたこととも関連しますが、完成品(ロボットを含んだシステム)の状態でしっかり測定も含めた、リスクアセスメントをしなさいという意図とも取れます。
今まで、ロボットメーカはISO10218-1:2011およびISO/TS15066:2016に沿って評価するのが通例となっていました。
今後はISO10218-1:2025に沿って評価ということになると思いますが、ロボットメーカが実施する評価の内容自体ははこれまでとあまり変わりないでしょう。
ISO10218-1:2025の5.10 Capabilities for collaborative applicationに記載されている通り、協働運転に使用するロボットはISO10218-2:2025の要求を実現できる能力を備えることが必要とされているからです。
ですが、そこにとどまらず、システムインテグレータの負担軽減のために、ロボットメーカからの試験情報の提供を含めた、サポートが充実することを期待します。
サイバーセキュリティに関する言及
ISO10218-1:2025の5.1.16 Cybersecurity、ISO10218-2:2025の5.2.16 Cybersecurity.
何かと話題のサイバーセキュリティについて、言及されました。
すでにロボット制御装置のサイバーセキュリティへの対応完了を発表しているメーカもありますが、今回の改定で待ったなしの状況となりました。
産業用サイバーセキュリティ国際標準規格「IEC 62443-4-1」認証を取得 | プレスリリース | 川崎重工業株式会社
ロボット新商品:ロボット制御装置R-50iA - 新商品紹介 - ファナック株式会社
協働作業の際の要件から「安全適合の監視停止」が除外
ISO10218-1:2011の4.10協働運転要求事項では、下記の4つの要求事項のいずれかを満たすことと記載されていますが、
- 安全適合の監視停止
- ハンドガイド
- 速度及び間隔の監視
- 本質的設計又は制御による動力及び力の制限
今回のISO10218-1:2025の5.10 Capabilities for collaborative applicationでは、下記の3つの要求事項のいずれかを満たすこと、と記載されており、
- Hand-guided control(HGC)
- Speed and separation monitoring(SSM)
- Power and force limiting(PFL)
安全適合の監視停止(Monitored-standstill)が協働運転の要求事項から外れています。
ただし、安全適合の監視停止は、協働とは別の箇所で言及*4されており、安全適合の監視停止を使っていたシステムが規格と合致しなくなるわけではありません。*5あくまで区分・定義が改められたのみです。
協働運転は、動いているロボットと作業者が同じ空間にいる状態を考えるということで、監視停止は除外されたのだと思います。
(なお、安全適合の監視停止は2011版の英語だとsafety-rated monitored stopでしたが、2025版ではsafety functionの1つのmoitored-standstillとなっています。JIS(日本語)での記載も変更があるかもしれませんが、ここではとりあえず「安全適合の監視停止」と記載しています。2025.3.27追記)
ロボットの分類(ClassI, Class II)が導入された
ISO10218-1:2025の5.1.17 Robot classに記載ある通り、ロボットの重量・出力・動作速度によって、Class I, Class IIに分類されることになりました。
Class Iのロボットは低慣性・低出力・低速度であり、人に与える危害が低いと考えられるため、安全対策への要求が若干緩くなっています。
ただ、Class Iに当てはまるロボットはかなり限定的であり、現段階ではあまり気にしなくてもいいかと思います。*6
全体的に親切になった
あくまで私の印象ですが、全体的に記載が詳細になり、親切になった印象です。
文書のボリュームはかなり増えているのですが、やることが増えたというよりは、やることが明確化されたと言えます。
例えば・・・
用語及び定義のボリュームアップ
ISO10218-1:2025の3. Terms, definitions and abbreviated termsおよびISO10218-2:2025の3. Terms, definitions and abbreviated terms
以前は、用語の章がけっこうあっさりしていたので、読み進める際に「この語はどういう意味で使われているのだろう?」と引っ掛かってしまうことも多かったです。
別途用語がまとまっているISO 8373:2021を確認したりなど、結構大変でしたが、新版では1つの文書にまとまっているので、読み込むのが楽になったと感じます。
設計要件・安全要求
ISO10218-1:2025の5. Design and risk reduction measuresおよびISO10218-2:2025の5. Safety requirement and risk reduction measures
設計要件・安全要求も説明が詳しくなりました。
以前は、詳しくは引用規格を見てね!という雰囲気が前面に出ていましたが*7、今回の版では説明が丁寧になり見通しが良くなった印象です。
(関連規格を参照する必要があることは変わりないのですが)
協働ロボットの衝突試験に関する記載
ISO10218-2:2025には、Annex Nとしてロボットと人が衝突した際の力を測定する装置の模式図・測定の具体的方法などが示されています。
TS15066:2016の時にはなかったので別途論文などを調べる必要がありましたが、今回のAnnexを参照すれば、手法に迷うことなく、評価できるのではないかと思います。
ただ、これだけ説明してるのだからきちんとやりなさい、というプレッシャーも感じます。
まとめ
ざっと全体の所感をまとめました。
いくつかの追加要素はあるものの、今までのISO10218-1,2:2011+TS15066:2016にしっかりと対応していたのであれば、今回のISO10218-1,2:2025にもすんなり対応できると思います。
順次、詳細に関する記事や、過去記事で規格に触れている内容のリライトを進めていきます。
*1:ISO10218-1:2011の内容はJIS B8433-1:2015として反映されましたが、これほど時間がかかるのはレアケースで、翌年には反映されると思います
*2:半製品・半完成品などとも。ロボットメーカから販売された時点では実用的な動きはできず、システムの中に組み込まれて初めて実用的な動作ができる
*3:The ISO 10218 series deals with robotics in an industrial environment, which is comprised of workplaces where the public is excluded and the allowed people (operators) are working adults.
*4:ISO10218-1:2025の5.5.5 Monitored-standstill、5.4.3 Protective stopなど
*5:安全適合の監視停止のみに対応したロボットを協働ロボットと呼ぶと、規格と合致しなくなりますが
*6:今後このClass Iを狙った商品群が大量に登場するといったことがあれば話が変わってくるかもしれません
*7:あくまで私の主観です